研究課題
福島の放射能汚染問題は徐々に収束しつつあるが、高汚染地帯を上流にもつ河川水中の放射能レベルは依然として高い。南相馬地区の農地では、放射性物質のおもな流入源のひとつが河川から取水している農業用水であると考えられ、地元農家では農地の汚染の上昇が懸念されている。本申請では、放射性物質の高い時期の河川水を回避するシステムとして、高汚染水が発生した場合に取水に対する警報を発する「取水警報システム(Sアラート)」の構築を計画した。本研究ではSアラートの開発に向け、基礎的なテータの収集を主な目的とした。まず河川水中の放射性セシウム濃度を、溶存態と粒子態に分離して測定する手法を最適化した。新田川下流の農業用水取水口付近および用水路の調査定点において、流速や濁度、放射能を継続的に測定し、くわえて台風時における増水時の河川水採取を実施した。その結果、平常時における放射性セシウムの溶存態および粒子態の割合が実測され、また増水時には粒子態の放射性セシウム濃度は10倍以上に増加するが、溶存態の濃度に大きな変化はみられないことも明らかとなった。次に地元農家より耕作を開始している水田の提供を受け、農業用水を介した水田への放射性セシウム流入負荷量を実測した。水田に流入する用水中の放射性セシウム濃度および耕作期間を通じた取水量を求め、水田に流入する放射性セシウム負荷量を推算した。あわせて対象水田土壌に残留する放射性セシウム濃度を測定して負荷量を推算した。結果として、用水を介して水田に流入した放射性セシウムの負荷量は、水田土壌に残留している放射性セシウム負荷量の1%以下であった。また該当水田で生育した水稲の籾に残留する放射性セシウムを測定したところ、ほとんどが検出下限値以下であった。現状においては、農業用水を介して水田に流入する放射性セシウム負荷量はほぼ無視し得ると推察された。
すべて 2018
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Landscape Ecol. Eng.
巻: 14 ページ: 29-35
10.1007/s11355-017-0333-y