研究課題/領域番号 |
15K11958
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
齋藤 朱未 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (20712318)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コミュニティ / 飯舘村 / 行政区 / 世代 |
研究実績の概要 |
初年度である平成27年度は,研究計画に従って飯館村民のコミュニティについて,避難前後での変化を調査した。調査は飯舘村における20行政区の実態を把握することを主として行なった。 避難前の行政区におけるコミュニティは,区ごとの行事や草刈り等の活動が盛んに行なわれていた。これらの行事・活動は,行政区のコミュニティ形成に影響を及ぼしていただけでなく,行事や活動を通じて村民同士のコミュニティのつながりを強くしていた。さらに,コミュニティの単位として,飯館村民の多くが行政区という単位よりも班(近所数件のまとまり)・組(数班がまとまったもので,冠婚葬祭等の範囲)を意識していた。 実際に避難する際の行政区の対応については,行政区ごとに対応も異なっていた。最終的な避難形態を決定するにあたり,行政区で話合いが持たれた行政区がある一方,話し合い等がなく個人で避難をした行政区がある。 避難後のコミュニティについては,行政区単位で村民が集う機会は年1回の総会,除染や東京電力による説明会といった機会が主であった。そのため,意識的に連絡を取ろうとしない限り,同じ行政区の村民同士でも近況は把握することが出来ず,冠婚葬祭の場等で久しぶりに再会し,お互いの近況報告をしているということである。行政区によっては区報を発行しており,それにより村民同士の情報交換を行なっていた。 飯館村民のコミュニティとして最も大きく変化したのは家族という単位であった。村民の多くは避難前に3世代・4世代での同居をしていた。しかし,原発事故の影響により現在は世代ごとにそれぞれ別の地域に避難している世帯が多い。また,30歳代・40歳代といった子育て世代においては子どもを第一とした避難先地域の選択,コミュニティの創出・変化が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において平成27年度の研究計画であったコミュニティ変化の把握について,計画通りに進んだ。当初予定していた20行政区への聞き取り調査はできなかったものの,10行政区について村民や行政区役員への聞き取りにより避難前後のコミュニティの実態を把握した。さらに,現在の避難先による新たなコミュニティの創出について,仮設住宅への避難村民,個人で借上げ住宅へ避難している村民のそれぞれについて明らかにした。これにより,現在コミュニティの問題は帰村後の村民の生活のみならず,飯舘村自体のあり方について再度検討する必要がある問題となっていることが改めて明らかとなった。 そのうえで,コミュニティ再建にあたっては,現在飯舘村において話し合い等の主となっている50歳代以上のみの意見では成り立たないため,計画を前倒しし子世代の帰村意向,子世代のコミュニティの現状についても調査を開始した。しかし,子世代の調査対象者の選定が難しい状況にある。対象者の選定は出来るものの,調査を受けることで自身の意見が匿名であっても露呈されることを不安に感じている様子が見受けられる。そのため,アンケート調査の実施に向けた事前調査が3名のうち,1名にしかできていない状況である。そのため,調査対象者の年代の拡大,事前調査を新聞等の雑誌記事による収集,調査内容の再検討を行なうことで対応しようと検討している段階である。これにより,当初の予定より子世代への調査に時間を要することが想定されるものの,今年度の調査はほぼ遂行済みであることを踏まえ,予定通りに研究成果の達成につなげることが可能であると考える。 以上のことから,進捗状況としては「おおむね順調」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方針としては,30歳代~40歳代を中心とした子世代に対し,その帰村意向とコミュニティの現状について調査を進める方針としていた。この調査については平成27年度の段階ですでに調査に着手しており,対象者の選定,調査実施への運びが難しいという状況にある。そのため,子世代の調査についてはこれまでよりも更に慎重に,時間をかけて調査を実施する方針である。また,現状では調査対象者の確保が困難な状況が継続される可能性もある。このことから,対象年代に関する事前調査を新聞等の雑誌記事,SNSの活用等により行ない,調査対象者を20歳代~50歳代と拡大することで調査対象者の選定を行なう。さらに,調査内容についても再検討することも検討している。子世代の意向を把握できた段階で,当初の計画に従いアンケート調査の実施を予定している。アンケート調査の具体的な方法については既に調査に協力いただいている飯館村民や行政と相談することで進めていく方針である。しかしながら,調査を進めるにあたりアンケート調査が適切な調査方法ではないと判断される場合,またその必要性が乏しいと判断される場合にはアンケート調査を実施しないことも想定される。そのため,子世代への聞き取り調査はその必要性についても考慮したうえで慎重に進めることとする。 以上のことから,子世代への調査に時間を要することが想定される。しかしながら,研究計画がほぼ順調に進捗していることから考えると,時間的な問題はないと判断できることから研究目的の達成につなげることが可能であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績にも明記した通り,初年度に実施予定であった研究計画は予定より順調に進み遂行できた。そのため,当初計画より旅費の支出がおおくなったものの,その他の経費がかかっていない。また,次年度以降に着手予定であった研究へもすでに取り組んでいる。その結果,調査対象者の拡大等を検討しており,計画以上の対象者への聞き取り調査,アンケート調査の実施が想定される。さらに,現地へ足を運び綿密な調査を行なうためにも次年度に予算が必要であると考え,使用額を繰り越すに至った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,研究分担者に本研究に携わってもらうこととし,その分担者の旅費使用に用いる予定である。研究目的の遂行には,綿密な現地とのやり取りが必要であり,そのために現地を訪れる回数も多く必要となる。そのため,研究代表者のみでは負担が大きいと判断し,研究分担者に協力を得ることで出来る限り調査対象者との連携を継続させたいと考えている。
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