研究実績の概要 |
今年度は1つの研究を完了し, 1つの研究についての道筋をつけた. 第1の研究については, 公的介護制度の利用者負担率の軽減と現役世代の負担軽減が経済に及ぼす影響について分析した. 具体的には, 環境汚染を生じさせる企業からは環境税を徴収し, 家計からは所得税を徴収することを原資として, 介護サービスを利用する退職世代の利用者負担率軽減のために使うのか, 公的介護制度を支えている現役世代の負担の軽減のために使うのかによって, 資本ストック, 汚染ストック, 民間の介護サービス事業者が供給する介護の価格と質および経済厚生にどのような影響が生じるのかについて分析した. その結果, 以下の諸点が明らかになった. 厚生水準を除けば,利用者負担率軽減政策の方が所得税軽減政策よりも望ましいことが明らかとなった. 一方厚生に関しては, 利用者負担率軽減政策が望ましいかどうかは全体の環境水準および環境への関心を表すパラメータ如何により異なることが明らかになった. 本研究内容は, 日本経済政策学会編『経済政策ジャーナル』第13巻に掲載される. 第2の研究は, 賦課方式から積立方式への年金制度の移行が経済厚生に及ぼす影響について明らかにするものである. 理論的には, 長期的には一人あたり物的資本ストックおよび介護サービス事業者の介護の価格の値を上昇させ, 介護サービス企業者が行う介護の質を悪化させることを明らかにした. しかし, 年金制度の移行が支持されるか否かの条件である厚生への影響は明らかにすることが出来なかった. そこで, 本研究ではシミュレーションによって, 年金制度の移行を段階的に緩やかに行うことにより即時移行によって大きく厚生低下の影響を受ける世代の負担を軽減することができる可能性を示した. この研究については次年度以降の研究で改善をはかる.
|