研究課題/領域番号 |
15K11975
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
卯月 盛夫 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (30578472)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ドイツ / スイス / 都市計画 / 公共事業 / 住民投票 / 投票率と得票率 / 住民参加 / 行政と住民の共働 |
研究実績の概要 |
研究初年度として、ドイツにおける住民投票制度の変遷と概要、および都市計画に関する住民投票の近年の傾向を文献調査によって行い、それをふまえて代表的な事例を現地調査、および関係者ヒアリングを行った。 まず制度の変遷と概要であるが、ドイツの住民投票は1955年、バーデン・ビュルテンブルク州ではじめて制度化されたが、その後各州にも広がり、1990年代にはドイツすべての州で住民投票制度が整えられた。現在各州の住民投票の成立要件は、投票者の過半数と共に、「絶対得票率8~30%」の範囲で定められている。 住民投票数の推移は、1956年から2013年までの57年間で合計6,447件(NPO法人 Mehr Demokratie 調査)あるが、そのうち3、177件が2003年~13年までの10年間に集中しており、近年増加傾向にあると言える。またテーマに関しても、本研究で対象とする都市計画・都市整備に関する事例は,全体のほぼ半数を占めており、住民の関心は高いと言える。 今回調査を実施した具体的な事例をひとつ紹介する。ベルリンのテンペルホーフ空港は、古い、狭いという理由から現在すでに閉鎖されている。ベルリン州はその敷地を利用して、住宅と業務の大規模開発の計画を立案したが、2009年の住民投票によって否決され、住民団体の名称でもある「100%緑地」という方針となった。しかし、住民リーダーは「行政は計画をあきらめたわけではなく、隙あらばいつでも開発を進めようとしている」と言う。実際、現在喫緊の課題である難民のための施設を暫定的に建設する提案もある。つまり諮問型の住民投票は、計画を一次ストップすることはできるが、あくまでも時限であり、行政によって計画内容の変更が決定されない状況では、行政と市民には常に緊張関係が続いていると言える。住民投票は、行政と住民による計画決定プロセスのひとつのツールと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツ各州の住民投票に関する制度の変遷とその概要については、既存文献および関係者ヒアリング調査によって順調に進展している。住民投票制度を比較する際の重要な視点は、「住民請求が可能なテーマまたは不可能なテーマ」、「住民請求に必要な有効署名率」、「住民投票の有効投票率」、「住民投票の有効得票率」、「住民投票結果の拘束期間」である。また、住民投票を議会が請求する場合は、「有効議決率」である。 住民投票数の推移とその傾向に関する調査も、NPO法人「Mehr Demokrtie!」の既存文献および逐次更新されるホームページデータの分析によって、順調に進展している。特に、同団体の中心人物であるマールブルク大学元教授のProf. Dr. Theo Schiller氏のヒアリングおよび同団体のベルリン支部、シュツットガルト支部職員とのヒアリングは、必ずしもデータに表現されない実態を知る上で大変有意義であった。また同団体は、住民請求・住民投票の運動の成果を14に分類しているが、今後各事例の詳細を調査する上で、これは極めて有益なデータである。 具体的な事例調査に関しても,当初の計画どおり5都市の住民投票に関する現地調査および関係者のヒアリング調査を行った。具体的には、ベルリンにおけるテンペルホーフ空港跡地の開発計画をめぐる住民投票、ドレスデンにおけるバルトシュレスフェンブリュッケ架橋計画に関する住民投票、ミュンヘンにおける高層建築に関する住民投票、シュツットガルトにおけるシュツットガルト21という大規模開発計画に関する住民投票、ウルムにおける市民文化センターと道路建設に関する住民投票である。これらの事例調査の重要な視点は、「住民請求にいたる行政・議会と住民の意見の対立」、「住民投票の結果」、「住民投票後の、行政・議会と住民の対応」、「計画や方針が正式に変更されたか否か」である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究計画が順調に進んでいるため、2年目の研究計画に関して大きな変更はない。 ドイツ各州の住民投票制度に関する概要については、日本にまだ導入されていない「有効得票率」の意味に関してさらに調査分析を進めたい。現状では、ドイツ各州で8~30%とかなり大きな違いがあるが、それ以前設立要件としていた「有効投票率」をなぜ「有効得票率」に変更したのか等の変更経緯やその実態を調べる必要がある。人口規模が大きくなると「有効得票率」は低く、また「投票結果の有効期間」も短くなる傾向があるため、人口規模との関係もより明らかにしたい。 初年度調査として、ドイツ各州では「住民請求が可能なテーマあるいは不可能なテーマ」に関する規定が重要であることが確認できた。日本では住民投票に関する条例は、通常住民請求後、個別に制定されるため、どのようなテーマが住民投票にふさわしいのか、あるいはふさわしくないのかに関してはあまり議論されていない。しかし今後、日本の住民投票条例の制度設計においては重要な内容であるので、整理をしておきたい。 住民投票数の推移と傾向に関しては、NPO法人「Mehr Demokratie!」が全ドイツの事例データ分析で結果を14に分類しているが、その内容についてさらに詳細な調査および関係者ヒアリングを進めたい。 さらに具体的な個別事例調査については、初年度大都市あるいは大規模な開発計画に関する事例収集が中心となったため、2年目は規模の小さな事例も取り上げたい。またドイツでは、州によって住民投票数にかなりの偏りがあるが、できるだけドイツ全土にわたる事例収集を進めたい。なお個別の事例調査については、本研究のテーマでもある「住民投票後の行政と住民と新たな計画プロセス」に重点を置くことが重要なので、今後事例数を増やすことと同時に、各事例のその後の詳細な実態調査も継続的に進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度において、ほぼ使用計画どおり使用したが、1,321円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、物品費として使用する予定であり、今年度生じた次年度使用額1,321円は、すべて使い切る予定である。
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