研究課題/領域番号 |
15K11975
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
卯月 盛夫 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (30578472)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ドイツ / スイス / 都市計画 / 公共事業 / 住民投票 / 投票率と得票率 / 住民参加 / 行政と住民の共働 |
研究実績の概要 |
研究2年目として、初年度のドイツにおける住民投票の近年の傾向と現地調査をふまえ、さらに代表的な住民投票事例の現地調査を継続して行った。 今回現地調査を実施した具体的な事例をひとつ紹介する。ドイツ最北部のシュレースヴイック・ホルスタイン州ウェストファーレン郡イーツェホーエ市のイーツェホーエ駅前にある郡庁舎の建替え計画の事例である。郡は全面建替えを前提に設計コンペを行い、設計事務所を決定した。しかし、周辺住民から現庁舎の歴史的な外観を保存すべきという住民投票が提起され、得票率はわずか11.0%であったが、法定有効得票率は8%であったため、有効となった。法定有効期間は2年である。その結果を重く受け止めた郡は、周辺地区を含めた歴史的環境の調査、住民との対話集会、さらに周辺一帯の都市計画アイデアコンペを実施した。またアイデアコンペ提案の展示やワークショップを積極的に行い、住民投票の結果に十分配慮しながら、住民との協議と合意形成を図っている。つまり、住民投票は市町村レベルだけでなく、郡や州の事業に対しても住民投票が提起され、その結果によっては、その後の住民対応も郡や州が丁寧に行っていることが明らかになった。日本では、国や都道府県が建設する公共施設や道路でも、市町村で住民投票を提起するケースがあり、その後の対応に関しては行政責任のあいまいさが指摘されている。 さらに今回は、3年目に計画していた,スイスにおける住民投票制度に関する文献調査を先行的に行うと共に、代表的な都市の住民投票の実態に関しても現地調査を行った。スイスは世界を代表する直接民主主義を標榜する国であるため、一定の予算規模を超える公共の計画や事業はすべて住民投票の対象となるように定められている。そのため、1年のうち4日間は住民投票の日曜日と定められており、住民投票が極めて日常化されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、ドイツの代表的な住民投票の事例を8~10収集し,分析をすることにしていたが、初年度は5都市5事例、2年目は4都市で5事例の現地調査を実施したため、調査は順調に進んでいる。イーツェホーエ市の多世代交流センターの建設をめぐる住民投票では、得票率17.63%を住民側は確保し有効となった。そこで、市としては計画を変更して進めることが想定されるが、本事例では住民投票後、政治的に混乱し、変更はもちろん推進もされずに、3年間計画はストップされている。 ハンブルク市の屋外プール建替え計画をめぐる住民投票においても、得票率15.46%で有効となったため、その後の丁寧な住民協議によって、理想的な修正変更が確認できた。また、エアランゲン市における路面電車の新設については、住民投票以前にはかなりの反対運動も展開されたが、結果は建設OKとなったため、逆に市は計画に拍車がかかったと言っている。エアランゲン市は比較的財政が豊かであることも賛成多数の理由として考えられるが、加えて住民投票以前から市による丁寧な住民参加プロセスがあったことも重要である。 さらに,アウグスブルク市の劇場建替え計画があるが、市の計画内容に疑問を持つ住民が住民投票のための署名を集めている期間内に、建替え賛成派の住民も同時に署名活動をはじめた。ところが、賛成派は住民投票の請求に必要な署名数を反対派より先に集めてしまったため、住民投票は実施されないまま、現在計画は市の計画どおりに進展している。この事例でも、建替え計画の作成にあたっては、市は大変きめ細かく住民参加プロセスをしてきた経過があるため、一部には反対住民の署名活動もあったが、結果的にはそれを上回る住民が賛成したという結果になった。公共施設の計画において十分な住民参加プロセスがあれば、住民投票を回避することができるという極めて貴重な事例である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度については、これまで同様NPO法人Mehr Demokratieのホームページから、その後のドイツ全体の住民投票の新しい状況を追加調査することとする。さらに、これまで住民投票の具体的事例を9都市10カ所で調査を実施したが、そのインタビュー調査をお願いした市の担当者に対して、追加調査をメール等で行う予定である。なお前年度ベルリンのテンペルホーフ空港跡地の計画に関しては、かつて住民投票で住民グループは勝利したが、常に行政と市民の間には緊張関係が継続していると報告した。正にその通りの結果として、本年秋には再度新たな住民投票が提起され、実施されるようなので、再び現地のヒアリング調査をする必要があると考えている。 当初の計画では、平成29年度にスイスの住民投票の実態調査を予定していたが、平成28年度にすでに先行して、チュ-リッヒ市とベルン市の住民投票の実態を調査することができたため、平成29年度はさらに1~2都市の実態調査と具体的な住民投票の事例調査を行う予定である。しかし、これまでも延べたようにスイスの住民投票は極めて日常的になっていると共に、そのほとんどが行政計画を追認するような事例がほとんどであるため、住民が署名を集めて住民投票を請求する事例はあまり多くなく,さらにそれによって行政が計画を変更する事例も少ないと思われる。その中でも特に、都市計画や都市整備に関係する事例はなおいっそう少ないので、具体的な事例収集とその後の対応に関する調査は、スイス全体で1~2事例になると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究2年目において、ほぼ使用計画どおり使用したが、70,251円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、物品費として使用する予定であり,今年度生じた次年度使用額70,251円はすべて使い切る予定である。
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