研究課題/領域番号 |
15K11975
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
卯月 盛夫 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (30578472)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 住民投票 / 都市計画 / スイス / ドイツ / 住民参加 / 都市開発 / 住民運動 / 公共事業 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、ドイツとスイスの都市計画に関する住民投票およびその後の計画変更等の実態調査を行った。ベルリンのテンペルホーフ空港跡地の開発については、2009年の住民投票によって開発が凍結されたが、近年移民を受け入れる必要性から、跡地の一部に移民用簡易住宅が建設された。そのことにより、現在州政府と住民との緊張関係が高まっている。さらにベルリンではもうひとつのテーゲル空港が閉鎖される計画があり、その後の開発に関して2017年9月に住民投票が実施され、この開発案も否決された。当面テーゲルプロジェクト有限会社としては開発計画の変更はないというコメントを出しているが、ベルリンによる大型開発が次々と住民に否決されることから、来年度はその後の動向を注視する必要がある。 またハンブルクでは、市が推進するハーフェンシティプロジェクトの一環として、エルベ川を跨ぐロープウェイが民間によって計画されたが、2014年の住民投票で否決、さらに2015年市の発意として行われたオリンピック誘致計画の住民投票も否決され、ハンブルクにおいても大きなプロジェクトが続けて住民に受け入れられなかった。2017年9月にハンブルク市アルトナ区のエルベ川浜辺に計画されていた自転車道も、生態系を破壊するという理由から否決された。 さらにリューベックでは、住民投票で否決された道路拡幅計画を見直した新たな計画が実施されている状況を調査した。 一方スイスのバーセルでは、住民請求による住民投票はわずかで、ほとんどが条例に基づく州あるいは市発意の住民投票であるため、1年に4回の住民投票の実施日程があらかじめ決定されている実態が明らかになった。住民請求による住民投票が少ない理由は、直接民主主義を前提にした日常的な住民参加が進んでいるためとの見解であった。この点は、ドイツとスイスに大きな違いがあり、さらなる調査研究が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は全体で4年間の計画であるが、すでに3年が経過した。ドイツにおいては、10地区程度の住民投票後の事例調査を計画していたが、すでに15都市(イーツェホーエ、シュタインブルク、リューベック、ハンブルク、ベルリン、ドレスデン、エアランゲン、レーゲンスブルク、ミュンヘン、アウグスブルク、カールスルーエ、マインツ、シュツットガルト、ウルム、コンスタンツ)22地区の事例を収集し、8割程度の現地視察と関係者ヒアリングを終えている。 一方スイスでは5地区程度の住民投票後の事例調査を計画していたが、スイスでは住民請求による住民投票の事例は非常に少なく、住民投票のほとんどが州あるいは市発意の事例となっている。スイスにおいて住民請求による住民投票が少ない理由は、日常的な住民参加が進んでいるためと多くの関係者が語っている。そこで本調査では、市町村レベルにおける住民参加の事例や都市計画における直接民主主義の仕組み等を実態調査することが重要と判断し、これまでチューリッヒ、ベルン、バーゼルの3都市において同調査を行ってきた。 したがって、スイスにおける調査計画においては一部変更もあったが、おおむね研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
ドイツにおける調査はそのほとんどが終了し、まとめと分析の段階となっている。したがって本年度においては、一部不足している現地調査および最終的なまとめを裏付けるキーパースンヒアリンを行う予定である。現地調査は、特に2017年度に住民投票が行われ、住民により否決されたベルリンの大型プロジェクトのその後の動向が重要であるため、プロジェクトの関係者からヒアリングすることにその主眼をおく。さらにキーパースンヒアリングは、ドイツの住民投票のデータバンクを運営管理しているNPO法人Mehr Demokratie およびProf. Schiller 氏を予定している。 一方スイスにおける調査は、住民請求による住民投票が起きにくくなっている背景と理由をさらに調査する。具体的には、チューリッヒ、ベルン、バーゼルにおいて、直接民主主義を前提にした住民参加システムの日常的な仕組みに関して、特にこども、家族、外国人等の視点から補足調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年ベルリンで大規模開発プロジェクトが住民投票によって否決されたため、その後1年の経過や計画変更をより詳しく調査をするために、当初2018年3月に予定していたドイツの追加調査を2018年9月に変更した。その結果、次年度使用額に変更が生じた。使用計画としては、ドイツへの旅費がそのほとんどになる予定である。
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