本研究の目的は、「所有権」の構築という観点から、アメリカをはじめ日中欧の年金システムの発展過程を分析し、その成立の条件、経済的な帰結および政策的論点を明らかにすることである。「所有権」概念を年金の歴史分析に応用することで期待できる成果は、第1に政策研究として複雑で技術的な側面の強い社会保障の法的概念や制度、またそれに関する論点を体系化すること、第2に年金研究として国際比較に堪える枠組みを発展させること、第3に所有権研究の対象拡張を通じて公共経済学および法と経済学の理論や分析枠組みを豊富化することであった。 昨年度までは、伝統的な確定給付型年金を中心として、その諸規制の発展に関する国際比較や国際機関における議論の整理に務めてきた。これらの研究成果を踏まえて、本年度は世界各国における確定拠出型年金について調査を進めることを試みた。具体的には国際的な年金研究を主導しているOECDを訪問し、各国における変化の理解について意見を交換した。また近年自動加入制度を導入した英国を訪問し、年金政策に関わる文献の収集、調査を行なった。これらの事実の整理を踏まえ、近年の年金再編及びその帰結をどのように評価していくべきか等について資料収集とその整理、研究会発表などを通じて考察を進めた。 また、企業年金において確定拠出型年金への移行が最もドラスティックに進行したアメリカについて、その普及が実際のところアメリカの退職後所得保障体系をどのように変更したのか、年金加入者層がどのように変更したのか、各種資料の整理に務めた。 これらの調査、考察の成果については、今後さらに研鑽を進めた上で論文にまとめていく予定である。
|