研究課題/領域番号 |
15K11993
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金野 秀敏 筑波大学, システム情報系, 教授 (20134207)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 応用確率過程解析 / ホインの微分方程式 / 非平衡系の生成・死滅過程 / 非線形確率過程 / 長期記憶効果 / 位相特異点ダイナミクス / 複雑系のダイナミクス |
研究実績の概要 |
平成27年度の実施計画項目としては以下に列記するものを考えていた:(1)非平衡系における「様々な生成・死滅過程の実験や数理モデルの調査」;(2)「ホインの微分方程式」を解く問題に帰着可能と推定される確率モデルの分類;(3)具体的な実現象データの解析を通じた生成死滅過程を内包する応用解析の展開;(4)ホイン型微分方程式の「標準型方程式への変換理論」と解の「積分表示の一般理論」の展開等。 (1)に関しては、複雑な非平衡開放系では位相特異点の生成・死滅ダイナミクスが系の重要な空間特性を反映することが分かってきており、プラチナ単結晶上の一酸化炭素の酸化反応、熱対流や液晶での欠陥形成、魚・プランクトンの群れ形成、量子乱流の渦ダイナミクス、心室細動時の位相特異点の生成死滅ダイナミクス、神経興奮要素(非線形振動子結合系)の2次元パタンダイナミクスなどの関連問題の存在を確認し、調査を継続している。(未発表)(2)に関しては1変数のマスター方程式の特殊な線形生成率・死滅率の場合、確率簿関数がホイン関数及び合流型ホイン関数で表現可能である特殊な場合の存在を発見し、結果は数理解析研(京都)、統数研(立川)、CDSA2016(インド)で発表した。(3)に関しては、心室細動などの心臓疾患と関連した位相特異点のダイナミクスに関連した解析を、マスター方程式を用いて実施し、結果の一部は数理解析研や統数研でも報告した。また、心拍変動の実データ解析や局所結合と対局結合の両方が存在する非線形振動子結合系への準備解析結果も統数研で発表している。(4)の標準型への変換理論に関しては、(2)で述べた、特殊なマスター方程式の解析に関する限り、特殊なホイン関数の積分表示と特殊な合流型ホイン関数の積分表示の表式を得ている。結果の一部は数理解析研(京都)、統数研(立川)、CDSA2016(インド)などの研究会ならびに国際会議で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
数学的な観点からは当初の計画どおりに進展してきたと考えている。しかし、応用確率解析という看板を掲げている以上、現実的な解析に応用できないと意味がない。特異点ダイナミクスに関しては空間1次元系や空間2次元系での解析を目指してきた。 2次元の熱対流系やPtの酸化反応系の位相特異点に関してはそれで問題なかったが、心臓疾患、特に、心室細動に関連した位相特異点のダイナミクスは、現実のシステムでは3次元であるため、3次元のスクロール波が壊れることによって形成される位相特異点のダイナミクスであることに気がついた。そこで、空間3次元の大規模数値計算を行っている海外の研究者にコンタクトをとり、数値シミュレーションの数値データを送付していただき閲覧させていただいたところ、空間3次元の場合には空間1次元や2次元の場合とはかなり様相が異なり、心臓表面の位相特異点を支配する要素が極めて複雑であり、異なる種類の特異点が作る「空間形状の異なるフイラメント」が相互に非線形相互作用を行っており、それが心臓表面の位相特異点の遅いダイナミクスを支配していることになっていた。 この問題をどのように解析するかを思案することに時間を割かれたため、研究の進展に若干遅れが生じている。すなわち、査読のある雑誌への研究結果の投稿が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は下記のとおりに実施する計画である。まず、数学的な観点からの重点解析は、(1)生成率及び死滅率が特異点数の1次関数になっている範囲での解析の理論体系の完成を図る。(2)生成死滅過程で非線形項が特異点数の2次関数になっている場合のマスター方程式、フォッカー・プランク方程式で表現される場合の解析理論の開発をおこなう。少なくとも、位相特異点のダイナミクスに関しては対消滅が無視できない領域では2次の非線形項の導入は必須である。理論的な考察の結果、ノイズ項が相加性か相乗性雑音かに依存して対応するフッカー・プランク方程式から導かれる固有値問題の従う方程式がホインD(Double Confluent)方程式、ホインB(Biconfluent)方程式、ホインT(Triple confluent)方程式などに帰着するので対応する解析法を開拓する。(3)また、フッカー・プランク方程式で特殊な非線形項を持つ場合には非線形変換によってホインC(Confluent Heun)方程式に従う固有値問題に帰着できる場合も見出しいるので、そのような重要な類型を採り上げて解析例を示し、解析方法の理論的枠組みを開拓する。(4)本解析でのホイン微分方程式による解析では、マルコフ系の場合と記憶のある非マルコフ系の場合の両方の解析が可能になる場合があることに注意した理論展開を実施する。(5)また、各種のホイン関数の積分表示の具体型の導出を試みる。また、(6)各種のホイン関数に特化した固有値問題の数値解法を考案する必要があれば実行する。 具体的な応用対象の物理的な重点解析は次のとおり実施予定である:(A)現実的な心室細動のモデルとしての3次元スクロール波乱流の生成死滅過程の数理解析を推進する。(B)非線形性の強い熱流体型では欠陥の生成死滅過程が生成率、死滅率ともに特異点数の2乗に比例する項が内在する系の解析の試みにも挑戦する。
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