遷移型非同期式回路は,要求・応答信号の,レベルではなく遷移(立ち上がり,立ち下がり)を用いるため,高速な回路が実現できるが,設計が難しく,その長所を活かすには非常に高い専門知識を必要とする.本研究では,複数のクロック入力を持つ,新しいフリップフロップを用いることで,遷移型制御回路のテンプレートを構築し,特別な専門知識なしに容易に遷移型非同期式回路を実現できる,新しい設計手法について検討している. 昨年度は,発展研究として,この新フリップフロップを基本要素として含む非同期式回路用再構成デバイスについて検討した.大域非同期局所同期方式の実現に特化することでアプリケーションを広めることができるのではと考え,データパス実現に特化したアーキテクチャを考案した.これにより,小・中規模の複数の同期式回路の「島」の間に,非同期式再構成可能デバイスを敷き詰める形の相互接続部が実現でき,異なるクロックドメインの接続の際に生じる様々な問題を本質的に回避できるとともに,フレキシブルかつ高効率な相互接続が期待できる.一方,再構成可能化に伴うオーバーヘッドに付いて検討し,いくつかの評価実験を行なった結果,特に非同期式回路を実現する本方式では,再構成可能部の基本単位(CLB: Configurable Logic Block)を大きくした,粗粒度構成を取ることが適しているという結論を得た.ただし,粗粒度構成に対する配置・配線処理は複雑になることが一般的に知られているため,その効率的アルゴリズムについて検討中である. 補助事業期間全体の成果をまとめると,複数のクロック入力を持つ新フリップフロップに基づく新しい遷移型非同期式回路の設計手法を確立し,応用例として遷移型非同期式NoCルータを実現・評価したこと,および,発展研究として遷移型非同期式回路用再構成デバイスについて検討したことがあげられる.
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