研究課題/領域番号 |
15K12036
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
西垣 正勝 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (20283335)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生体認証 / 差動増幅回路 / 読取り誤差の訂正 / ノイズ補償回路 |
研究実績の概要 |
一般的に生体情報は曖昧であり、同一人物であっても入力の度に誤差が含まれるため、本人拒否率を抑えようとすると、ある程度の他人受入れを許容する必要がある。この生体認証特有の根本的な課題の解決には、「生体情報の曖昧性そのものを消失させる」という一見不可能な問題を克服するためのブレイクスルーが必須となる。そこで本研究では、生体認証の精度を阻害する主要因となっている生体情報の曖昧性を、生体情報センシングの際に混入する「同相ノイズ」としてモデル化する。そして、アナログ電子回路における差動増幅回路の仕組みを生体情報センシングに融合することによって、生体情報の曖昧性を生体情報自身によって相殺する仕組みを実現する。2点間の生体情報の差分を求めることによって、同相ノイズに相当する環境ノイズを消失させ、差動成分に相当する生体情報のみを精度良く抽出することが本研究の目的である。 平成27年度は、生体情報のモダリティとして血流量を例に採り、2点間の血流量の差分成分を利用した生体認証メカニズムのコンセプト(作動増幅生体認証)を検討した。プロトタイプシステムを実装し、実証実験を実施した。少人数の被験者ではあったが、同一ユーザの2点間の血流量の変化には相関があることが確認でき、作動増幅生体認証の実現可能性が示唆される結果が得られた。 平成28年度は、作動増幅生体認証のメカニズムを理論的に考察した。差動増幅生体認証のメカニズムが、2点の生体情報の局所高次モーメントスペクルの関係演算を用いた生体認証方式の動作原理を強化したものであることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、ある1つの動的生体情報に対し、生体情報のセンシングを2点(2箇所あるいは2状態)で行い、2点間の生体情報の差(または比)を求めることによって、生体情報に含まれる読み取り誤差や生体情報自体の変動を吸収する方法を検討した。そして、その第一歩として、生体情報の変動の相殺に焦点を当て、血流量の比を用いた生体認証のコンセプト設計を行なった。 平成28年度は、複素数で表される2点の生体情報の比をとるこで生体情報に現れる変動を吸収できる仕組みについて考察した。この結果、差動増幅生体認証のメカニズムが、2点の生体情報の局所高次モーメントスペクルの関係演算(内積演算を簡略化した演算)を用いた生体認証方式の動作原理を強化したものであることを明らかにした。 また本研究は、生体情報のコントロールという観点で、微細生体部位の生体情報を用いることによって生体情報自体の任意の再登録を可能にする「マイクロ生体認証」の概念と共通している。そこで、平成27年度は爪をモダリティとしたマイクロ生体認証に関しても検討を行なった。 これの成果を国内研究会にて発表しており、達成度は「概ね順調に進展している」に区分されると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成27-28年度の研究成果を引継いで、以下の研究を推進する。 作動増幅生体認証に関しては、実証実験を充実させ、提案方式の有効性評価を継続していくとともに、安全性に関する考察を深めていく。また、血流量以外のモダリティ、2点間の比を採る方法以外の方式について模索する。更に、作動増幅生体認証を既存の生体認証技術・生体認証基盤に組み込むための方法についても検討していく予定である。 マイクロ生体認証に関しては、認証精度と利便性の評価を継続するとともに、生体情報の中から登録された微細部位を高速に検討する方法、微細生体情報のレプリカに対向するための生体検知技術などについて考察を深めていく。
|