一般的に生体情報は曖昧であり、同一人物であっても入力の度に誤差が含まれるため、本人拒否率を抑えようとすると、ある程度の他人受入れを許容する必要がある。この生体認証特有の根本的な課題の解決には、「生体情報の曖昧性そのものを消失させる」という一見不可能な問題を克服するためのブレイクスルーが必須となる。そこで本研究では、生体認証の精度を阻害する主要因となっている生体情報の曖昧性を、生体情報センシングの際に混入する「同相ノイズ」としてモデル化する。そして、アナログ電子回路における差動増幅回路の仕組みを生体情報センシングに融合することによって、生体情報の曖昧性を生体情報自身によって相殺する仕組みを実現する。2点間の生体情報の差分を求めることによって、同相ノイズに相当する環境ノイズを消失させ、差動成分に相当する生体情報のみを精度良く抽出することが本研究の目的である。 平成27年度は、生体情報のモダリティとして血流量を例に採り、2点間の血流量の差分成分を利用した生体認証メカニズムのコンセプト(作動増幅生体認証)を検討した。プロトタイプシステムを実装し、実証実験を実施した。少人数の被験者ではあったが、同一ユーザの2点間の血流量の変化には相関があることが確認でき、作動増幅生体認証の実現可能性が示唆される結果が得られた。 平成28年度は、作動増幅生体認証のメカニズムを理論的に考察した。差動増幅生体認証のメカニズムが、2点の生体情報の局所高次モーメントスペクルの関係演算を用いた生体認証方式の動作原理を強化したものであることが明らかになった。 平成29年度は、これらの生体認証方式の原理を検討していく中で、人間の反射を利用した生体認証および爪表面の微細形状を利用したマイクロ生体認証に関する着想に致り、種々の実験および評価を行った。
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