研究課題/領域番号 |
15K12037
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村松 大吾 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (00386624)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオメトリクス / 歩容認証 / 隠蔽 / 欠損復元 |
研究実績の概要 |
バイオメトリクスでは,人物から生体特徴を抽出して認証を行う.この場合比較される特徴が抽出される領域はデータ間で共通していることが大前提である.しかしながら,実環境における認証問題を考えた場合には,顔認証であればサングラスやマスクの着用による隠蔽,歩容認証においては,遮蔽物や画角と人物の対応位置などの関係による隠蔽が生じ,本来特徴を抽出したい領域の情報を正しく取得できないことが頻繁に起こる. それでもデータ間に共通領域が存在する場合には,その共通領域のみに着目し特徴抽出することで認証が可能となるが,共通領域が存在しない場合には,既存の一般的な手法では認証ができない.そこで本研究課題ではこの困難な状況を想定し,互いに重なりのない領域データからの個人認証実現手法を検討する.具体的には顔認証や歩容認証の見えに基づく手法に注目し研究を進める. 本年度は,歩容認証における,シルエットに基づく特徴,周波数特徴に焦点を当て,人物全身領域を複数の領域に分割し,分割された領域から抽出された特徴のみから全身歩容特徴を再生する歩容再生技術を開発した.歩容再生にはまずは第一段として部分空間法を用い,再生対象の特徴を含まない多数の他人歩容特徴を学習に用い,それらを用いて全身歩容部分空間を構築し,その構築した部分空間で歩容特徴を表現することで,全身歩容の再生を実現した.この技術を大阪大学が保有する大規模歩容データベースOU-ISIR-LPを用いることで,変換精度や認証精度をした.初期開発アルゴリズムは左右で重なりのない領域からの歩容認証において,等誤り率で16%程度では認証が可能である,という結果をえた.この認証精度は隠蔽領域により大きく異なるため,複数の異なる分割領域を準備することで精度評価を実施した.また,歩容における観測角度の影響に関しても評価を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歩容認証に対しては,歩容再生を用いた認証アルゴリズムを実装し評価を行った.その結果想定していたアルゴリズムが予想通りに機能することが確認できた.そのため,その成果について学会等で報告している.国内のシンポジウムでは,本研究課題の内容が招待講演として選ばれ,またポスター発表では優秀ポスター賞に選出された.また,アルゴリズムに関しては歩容認証に対して初期アルゴリズムの改良に着手し,大幅な再生精度の改善と認証精度の改善が実現できるという実験結果を得ている.この方法は,本研究課題設定当初にはなかったアイデアであるが,再生された歩容特徴データを解析することで,初期アルゴリズムの問題点が明らかになり,その問題点を解決するテクニックを各種検討,評価することで,改良アルゴリズムの構築に至った.具体的には,再生する際に歩容らしさを定義し,歩容らしさの観点からでも質の高い歩容特徴となるように,特徴再生を行うものである.現在この改良アルゴリズムを複数のデータベースに対して多面的に解析を行っているところであるが,改良アルゴリズムについては平成28年度前半の早い段階で国際論文に投稿ができる段階に到達していると考えている.また,この改良アルゴリズム開発時に得た知見は,本研究課題のみならず,他の研究課題にも有効なものであり,その解決テクニックは他の問題にも適用が可能である. 歩容認証に対しては,当初の計画以上に進展しているが,その一方で顔認証における評価は少し遅れ気味である.そのため,全体としては,おおむね計画通りだと考えている.ただし,アルゴリズムの進展は非常に重要な成果であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度までの研究成果を受け,平成28年度は次の項目に関し研究を進める 1.歩容認証における「歩容らしさ」を考慮した改良アルゴリズムの評価・解析・発表:改良アルゴリズムに対し,多様な隠ぺい領域に対する評価,観測方向や身体部位等との影響を複数のデータベースを用いて評価・解析を実施し,その成果を査読付き国際論文に投稿する. 2.顔認証に対する初期アルゴリズム・改良アルゴリズムの適用と評価:歩容認証に向け開発済の初期アルゴリズム,改良アルゴリズムを顔データベースに対して適用し,評価を行うとともに,歩容特徴と顔特徴の違いを整理し,歩容特徴で開発したアルゴリズムを基礎アルゴリズムとして顔認証向けに改良を加える. 3.認証精度改善のための改良や他手法との組合せ検討:平成27年度は歩容らしさを考慮することで再生精度や認証精度の大幅な改善を確認したが,歩容らしさの定量化については十分に検討していない.歩容らしさの定量方法を検討し,再生精度や認証精度の向上につなげる.また,歩容認証の視点変換において有効であった変換一貫性の概念の導入も検討し,精度改善を目指す.さらに,本研究課題の特長は,欠損している部分領域から全体特徴を再生する手法を検討していることであり,この手法は認証問題においては識別的手法などと組み合わせることで,認証精度の改善が期待できる.そのため,再生精度の向上という点のみならず,認証精度に焦点を当てた場合の精度向上手法も検討する. 4.他のモダリティ及び類似課題への適用可能性検討:歩容や顔特徴のみならず,画像ベースの特徴を用いた個人認証手法にも開発アルゴリズムの適用も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題については,顔認証,歩容認証を研究対象としているが,平成27年度はほとんど歩容認証に注力したため,既存設備等を利用して実験ができたこと,及び良い研究成果が得られたため,国際会議で発表するのではなく,直接英文論文誌に投稿する,方針を取ったため,平成27年度は当初の計画よりも執行額が少ないという状況になりました.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は順調に成果が得られていることより研究成果の論文誌への投稿に伴う掲載料,各種学会等での成果発表等が計画よりも増えると予想されるため,27年度分の予算も研究成果発表のための旅費や英文校正費,論文掲載料等で利用したいと考えています.また,27年度に予定していた顔認証アルゴリズムへの拡張に伴い,物品購入の必要が生じますので,それらの目的に利用予定です.
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