本研究は,バーチャル・リアリティ(VR)空間に提示される「ひと」の実在感の評価法の開発とその生起メカニズムの解明を目指すものである。複数人で1つのVR空間を共有して共同作業を行う場面では,課題を共有している他者が実在感をもって感じられていることが作業効率や安全性を高める上で非常に重要である。しかし従来VR空間の評価は「場」や「もの」の観点でしか行われてこなかった。そこで,本研究はVR空間に提示される「ひと」の実在感に焦点を当てた。 本年度は「ひと」の実在感の評価法の確立をさらに進めるため,身体近傍空間に焦点を当てた検討を行った。一つは前年度までに実施した身体近傍空間の投影現象を用いたものであり,行動指標としての特性の検討を行った。その結果,他者の存在によって大きく変化し,被験者自身の共感性や他者との関係性等の影響を受けにくいことが示された。ユーザーの共感性というパーソナリティ特性やVR空間に提示される他者との社会的関係は,VR装置自体がもつ他者の存在感創出性能を評価するうえで,できるだけ影響を排除したい要因である。したがって,本実験の結果は,身体近傍空間の投影現象がVR空間における行動指標として有効である可能性を示している。この実験のデータは,今後国際学会での発表と国際学術雑誌での発表を予定している。二つ目は,身体近傍空間への注意を利用したものであり,自身の身体近傍へ注意が誘導されやすいだけではなく,他者の身体近傍へも注意が誘導されやすいことが示された。今後この指標の特性を詳細に調べることによって,身体近傍空間の投影現象と並んで有効な指標となる可能性があることが明らかになった。
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