研究課題/領域番号 |
15K12041
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
栗木 一郎 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (80282838)
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研究分担者 |
篠崎 隆志 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 研究員 (10442972)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 視覚的注意 / 脳波 / SSVEP / BMI / 脳波キーボード / 位相テンプレートマッチング / 連続ウェーブレット変換 |
研究実績の概要 |
両眼に個別に点滅視標を呈示した時に誘発される脳波(視覚定常誘発電位:SSVEP)を用いて,視野の中で注意が向けられている方位を推定する方法の実装を試みた結果,偶然よりも高い確率で注意の位置を推定する事に成功した. 本年度は,左右眼に縦/横に配列したキーパッドに見立てた視標を 12 Hz/ 20 Hz で点滅させ,キーパッドを選択する BMI の形式で研究を進めた.視標の点滅速度は左右眼で異なり,また片眼の中では縦方向/横方向に異なる位相で点滅する視標を呈示した.予め同じ被験者の脳波から,特定の時間周波数および位相で正弦波状に点滅する視標で誘発された脳波を抽出し,連続ウェーブレットによって求めたスペクトログラムによる脳波テンプレートを作成しておき,これを用いたパターンマッチングを行う方法(位相テンプレートマッチング法)を実装した. 当初予定していた合成周波数(左右眼の周波数の差あるいは和)に対応する脳波成分は微弱で非常に観測が難しく,左右眼を縦横のエンコーディングに用いる事は難しかったが,位相符号化とテンプレートマッチング法に切り替えた事により,チャンスレベル(偶然に当たる確率:12 選択肢中の場合,1/12 = 約 8 % )以上の成績(約 50 %の正答率)で注意の向いている方位を同定する事ができるようになった事は大きな進展である.この研究成果は2つの国内学会(LE2016,日本視覚学会 2017 冬季大会)において発表することができた. また,物体形状に依存して広がりを示す視覚的注意(object-based attention)について,SSVEPを用いて物体形状に沿った広がりを示している事を論文として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数字キーパッドのようにグリッド型に配置された視標を両眼に異なる時間周波数の点滅で呈示し,さらに左目に縦方向・右目は横方向(あるいはその逆)に異なる位相で点滅させた場合の視覚誘発脳波(SSVEP)に対し,位相テンプレートマッチング法を用いる事により,1ショットで2次元に配置された視標のどれに注意が向いているかを特定する事ができた. 当初予定していた合成周波数(左右眼の周波数の差あるいは和)に対応する脳波成分は微弱で非常に観測が難しく,左右眼を縦横のエンコーディングに用いる事は難しかったが,位相符号化とテンプレートマッチング法に切り替えた事により,チャンスレベル(偶然に当たる確率:12 選択肢中の場合,1/12 = 約 8 % )以上の成績(約 50 %の正答率)で注意の向いている方位を同定する事ができるようになった事は大きな進展である.この研究成果は2つの国内学会(LE2016,日本視覚学会 2017 冬季大会)において発表することができた. また SSVEP を用いて,視覚的注意の広がりが注意対象となった図形の形状に合わせて展開している事を示す研究結果を論文として発表することができた.この研究では,注意を引く視標(注意の中心点)から等距離にある2カ所に点滅視標(プローブ)を呈示し,中心点を取り囲む図形と同じ枠に包含されるプローブと,図形の外に存在するプローブに対する SSVEP の変化を比較した.その結果,中心点を含む図形と同じ枠の中に呈示されたプローブに対する SSVEP が,枠外に存在するプローブに対する SSVEP より有意に高い事を示す結果を得た.この成果を Japanese Journal of Physiological Psychology and Psychophysiology に発表することができた.
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今後の研究の推進方策 |
2次元に配置された 12 視標に対するチャンスレベル(偶然当たる確率)約 8% に対し,SSVEP による注意方向の同定成績がその6倍以上の約 50% を示している事は,基礎研究として学術的には十分に高いレベルである.しかしBMI の入力として使える性能としては不十分であり,さらなるマッチング精度の向上が必要である. 一つの原因として,SSVEP の周波数と位相の同期度が左右眼の間で短時間で交代する現象が挙げられる.これは視野交代と呼ばれる現象あるいはその準備的な神経活動に対応する脳活動と推定され,短時間で不規則に発生する左右眼の切り替わりをどのように克服して精度向上に結びつけられるかが重要な鍵となる.具体的には,短い時間帯ごとに左右眼の周波数に対応した SSVEP のパワーを比較し,左右眼に対応した時間帯の切り出しを行った上で正規化した位相マッチング視標を策定する事により,検出精度が上がる事が見込まれる.また,この左右眼の SSVEP 成分の時間的変動のデータ解析を通じて,左右眼の優位性の交代がどのようなダイナミクスにより生じているかについてもアプローチできるのではないかと考えている. 一方,視覚的注意は広がりが変化する事も知られているが,本研究の技術ではまだその状態の測定には至っていない.同一図形の内部/外部における注意の広がりは,プローブ点を中と外に1カ所ずつ設けただけであり,広がりを厳密に測定する事はできていない.そこで,SSVEP 成分の定常状態からの逸脱を検出する技術を適用することにより注意の広がりを測定する事が可能となると見込まれ,その技術を実装する研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
被験者謝金を必要とする外部被験者をもちいた実験を実施する段階に到達していなかった事と,論文掲載費が予想より少額であった事により剰余が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
研究が最終段階に差し掛かり被験者数を増やして実験データを収集する際に,未使用の謝金分を使用する.また今年度の論文投稿によってそれ以外の剰余額も使用する見通しである.
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