研究課題/領域番号 |
15K12042
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本吉 勇 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (60447034)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 絵画 / 嗜好 / 画像統計量 |
研究実績の概要 |
研究のための材料と手段を整備するため,(1) インターネットに存在するデータベースより数千の絵画画像を取得し,メタデータに基づき分類するとともに解像度を揃えるなどして独自のデータベースを構築した.同時に,(2) 視覚野V1/V2において符号化されることが示唆されている画像統計量を正確かつ高速に計算するためのソフトウェアを開発・改良した.(3) これを用いて一部の画像に分析を施したところ,西洋・東洋の絵画は(以前の我々の研究と同様に)低次の統計量において大きな違いがあることを再確認した.しかし,西洋絵画内部における様式の分類に適用するにはまだ限界があることも判明した. 次年度に予定していた絵画の統計量そのものに対する嗜好を検討する心理物理実験について,上記の分析結果を受けて,まず比較的分析が容易である自然なテクスチャ画像を対象として研究を進めた.その結果,物体表面などのテクスチャ画像に対する嗜好と嫌悪,すなわち美醜について重要な知見が得られた.(1) 人間は特定のクラスのテクスチャ画像に対して嗜好と嫌悪の反応を示す.(2) 嗜好と嫌悪はそれぞれ少数の低次の画像統計量により決定されている.(3) 嗜好と嫌悪の反応は画像統計量のみが等しい合成画像でも原画と大きく変わらない.(4) 嗜好と嫌悪の反応は原画の内容がわからないほど短時間の観察でも大きく変わらない.以上の結果から,人間の視覚系には物体や材質の認識とは別に,画像の単純な統計量から素早くその美醜の反応を引き起こす処理経路が存在するとの理論を提唱した.この成果は国内学会で発表賞を受賞し,国際会議VSSに採択された.美醜判断と相関する瞳孔反応を計測する実験も進めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度半ばにドイツのGatysら(2015, ArXiv)が深層学習アルゴリズムを用いて絵画様式を合成するという技術を突如発表し,メディアでも取り上げられるほど注目を集めることとなった.この研究により,本研究の一部,つまり絵画様式を画像統計量に基づいて解析し分類するという試み(今年度に完了予定)の新規性が部分的に低下することになった.そこで研究の細かな方針を修正する必要が生じ,それにはいくらかの時間がかかった. 一方,次年度に実施する予定であった画像統計量に対する嗜好や美醜判断に関する研究は,対象の画像をテクスチャに置き換えることにより大きく進展した.得られた知見は学会で高く評価されており,その後の実験も順調に進んでいる.また,この研究を通して,画像統計量解析のための実用的なプラットフォームを構築できたことも大きい.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は,分析を低次の画像統計量に敢えて絞り込むことにより,その情報が絵画様式の分類においてどのような意味があるかを検討する.これにより,上記のGatysらの研究と競合することなく,新たな知見をもたらすことができると期待している.その上で,当初予定していた通り,様式の生態学的起源についての分析を進める.同時に,テクスチャ画像について適用し成功した画像統計量に対する嗜好の実験を絵画に適用し,様式に対する好みや美醜の判断メカニズムを分析する.最後に以上の知見を総合し,絵画様式の知覚と嗜好に関する脳情報処理について,一つの原理を提案することを目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画にしたがい予算を執行したところ上記の残額が生じた.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の「その他」予算に関して消耗品を購入する.
|