昨年度より進めていた画像統計量に対する嗜好の研究を,瞳孔や脳波などの生理反応の解析を含めて大規模に展開した.(1) 様々な表面画像に対する嗜好と嫌悪の評価をより詳細に解析した結果,人間が嗜好あるいは嫌悪する少数の画像統計量を同定することができた.(2) 表面画像に対する瞳孔反応を解析したところ,嗜好・嫌悪によらず情動価の高い画像は縮瞳(従来の研究と逆)を引き起こすことが判明した.(3)表面画像および統計量合成画像に対する誘発電位を解析したところ,主に後頭葉において,嗜好および嫌悪に相関する電位および周波数成分が存在することが明らかになった.また,これらの成分は特定の画像統計量と動的に関係することもわかった.また,以上の研究と並行して,(4)生態学的には嗜好されるはずの「食べ物」の画像を解析し,多くの食べ物は嫌悪されるべき画像統計量をもつものの,食べ物であると認知されるやいなや心地よいと判断されることを明らかにした.以上の結果から,人間の視覚系には物体や材質の認識とは別に,画像の単純な統計量から素早くその美醜の反応を引き起こす処理経路が存在するものの,統計量から素早く材質を認知する過程も存在し,それらの相互作用により嗜好が判断されることを示唆している.これらの成果の一部を国内学会で発表(発表賞),複数の国際会議等で招待講演をした. 上記の画像統計量分析の手法を昨年度に構築した絵画画像のデータベースに適用し,低次画像統計量に基づく西洋絵画の様式分類を試みた.全ての画像セットについて画像統計量を主成分分析などの多変量解析にかけたところ内容の影響が非常に大きく様式に基づく分類は難しいことが判明した.そこで,主要なモチーフまでの知覚的な視距離等に基づき群に分け分析をほどこしたところ,ある少数の画家の作品には他の画家と異なる特異的な傾向があることが明らかになった.
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