研究課題/領域番号 |
15K12043
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
開 一夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30323455)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | デジタルおしゃぶり / 随伴性 / 乳児 / 発達 / インタフェース |
研究実績の概要 |
本研究は、認知的・言語的機能が未発達あるいは極端に低下していても用いることができる情報デバイスを設計・開発することを目的としていた。具体的には、我々が開発済みの「デジタルおしゃぶり」を用いた発達認知神経科学的実験とデバイスの改良を同時平行的に行いながら、口唇部で操作する情報入力装置を改良してきた。本研究の特徴は、意思表出や言語機能・認知機能が発達途上である乳幼児を対象としたデバイス評価実験を実施している点である。つまり、障がい者の代替モデルとして乳幼児を捉え、障がい者・高齢者のコミュニケーション支援技術を創出するため、乳幼児を対象とした行動実験・脳活動計測実験が行われた。具体的には以下の【研究項目1】から【研究項目3】の3つを実施した。 【研究項目1】 脳活動計測指標・行動指標を駆使したスイッチとしての「デジタルおしゃぶり」の評価 【研究項目2】 「デジタルおしゃぶり」の改良 【研究項目3】 乳幼児をモデルとした意図検出装置としての「デジタルおしゃぶり」の可能性評価 【研究項目1】に関しては、成人を対象とした実験で、単純反応課題とGo-NoGo課題を用いて、指先での反応と口唇部での反応を比較し、反応時間に関しては差が観られないことが確認できた。【研究項目2】に関しては、空気圧センサを用いるものを新たに開発した。【研究項目3】に関しては、6ヶ月児を対象とした実験で、随伴性のあるなしで反応に違いがみられ、現在データを分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定した以下の3つの研究項目についてこれまで得られた研究成果について述べる。 【研究項目1】 脳活動計測指標・行動指標を駆使したスイッチとしての「デジタルおしゃぶり」の評価 【研究項目2】 「デジタルおしゃぶり」の改良 【研究項目3】 乳幼児をモデルとした意図検出装置としての「デジタルおしゃぶり」の可能性評価 【研究項目1】に関しては、成人を対象とした実験で、単純反応課題とGo-NoGo課題を用いて、指先での反応と口唇部での反応を比較し、反応時間に関しては差が観られないことが確認できた。これにより、少なくても成人では、「デジタルおしゃぶり」を用いた入力操作は指先での入力と遜色ないことが示唆された。【研究項目2】に関しては、空気圧センサを用いるものを新たに開発した。従来作成したフォトセンサを用いたデバイスと比較して、デバイスの反応特性が若干異なるものの、どちらも安定的に使用できることが確認された。 【研究項目3】に関しては、6ヶ月児を対象とした実験で、随伴性のあるなしで反応に違いがみられている。実験では、音がフィードバック刺激として用いられ、乳児のサッキング強度が閾値を超えた場合に音をならす場合と「デジタルおしゃぶり」がある特定の吸い方で吸われた場合に音をならす場合、自身の吸い方とは無関係に音がなる場合が比較された。実験の目的は、乳児がフィードバックの有る無しに「気づき」、その後のサッキングを変化させるかどうかを検討することであった。つまり、自身の行為(サッキング)と外界からのフィードバック(音)の関係性を理解し、能動的にデバイスを操作するのかについて明確にすることがが目的であった。これを明確にするには、行動指標のみでは弱く、EEG等の脳活動計測を実施する必要がある。現在、EEGを用いた計測実験を実施しており、分析中である。
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今後の研究の推進方策 |
3つの研究項目のうち、【研究項目3】に関して,EEGとNIRS(近赤外線分光法)を用いて行動レベルの指標と脳活動指標を関連づけることで、乳児であっても「能動的」に「デジタルおしゃぶり」を操作可能かどうかを更に検討していく指針である。 EEGに関しては、成人を対象とした予備実験を実施中であるが、口唇部の運動がアーチファクトとなって正確に脳波データを取得することが困難であることが分かってきた。今後は、モーションアーチファクトに影響されにくい実験パラダイムをの変更し、「デジタルおしゃぶり」から得られる運動データに基づいてEEGデータの補正するための解析方法について検討する予定である。 一方、NIRSは、モーションアーチファクトに対して比較的ロバストに計測が可能であるため、EEGによる脳活動計測と平行してNIRSによる脳活動計測も実施する予定である。まずは、成人の被験者を対象にして、自己運動に随伴するフィードバックがある場合と無い場合の脳活動を(頭頂付近をROIとして)計測する予定である。成人の実験の後、乳幼児や高齢者を用いた実験を実施し、EEGのデータと比較することで、「能動性」に係わる脳部位を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
劣化を想定して購入を予定していた脳波計測用のプローブ(消耗品)が従来保有していたものを活用することができた。プローブの摩耗は予測不能のため、次年度に予算を繰り越し、引き続き本研究を発展させる。
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次年度使用額の使用計画 |
脳波測定用プローブ(消耗品)を購入予定である。
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