研究課題
本研究ではヒトの記憶システムにおける無意識的処理を明らかにすべく、2015年度から2017年度まで(うち1年間は期間延長)、行動実験および生理実験を行ってきた。申請時点では、「思い出せなかったことが想起を止めた後で思い出せる」という現象(レミニセンス; 記憶亢進)を手がかりに、「記憶想起を止めた後でも意識下では記憶処理が持続しており、その処理は意識的な想起以上に想起を促す働きがある」という仮説を立てていた。しかし、想起後に別の課題を行う場合と想起を続ける場合を比べる行動実験の結果、複数の実験において、別課題の挿入には想起を促す働きは観察されなかった。また、海馬の皮質脳波を調べた生理実験からも、「想起に関連する律動的神経活動が想起を止めた後に強まる」といった現象は観察されなかった。(但し、後述する律動的神経活動が生じる要件を考えると、更なる検討が不可欠である。)その一方で、複数の行動実験において、想起を繰り返したときよりも想起後に別課題を行ったときの方が記憶忘却は減少しており、想起後の別課題の挿入には忘却を防ぐ働きがあることが明らかになった。そこで、「思い出そう」という認知処理が意識下に眠る記憶表象にどのような影響を与えるのかを明らかにするために、行動実験および頭皮上脳波の計測実験を行った。その結果、記憶成績を調べた行動実験からは、想起後では想起対象となった情報の再学習容易性が高まっていること、脳波律動を調べた生理実験からは、その増大が記憶方略(トップ領域)ではなく記憶表象(ボトム領域)の変化に由来していることが強く示唆された。この知見は、「テストを受けると対象となった情報の保持が促進される」という現象(テスト効果)を明らかにするだけでなく、記憶形成における未知の機序がある可能性を示唆するなど、重要なものである。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
i-Perception
巻: 8 ページ: -
https://doi.org/10.1177/2041669517742176