研究課題/領域番号 |
15K12047
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 和生 京都大学, 文学研究科, 教授 (80183101)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 比較認知心理学 / 高次感情 / 思いやり / 妬み / 協力行動 / 霊長類 / 伴侶動物 |
研究実績の概要 |
高次感情はヒトどうしの相互作用を規定する重要な要因であり、その進化の過程を明らかにすることが本研究課題の目的である。平成27年度には、自身が相互交渉の当事者である場合に抱く高次感情の分析をおこなったので、28年度には第三者的立場で抱く高次感情として、賞賛と義憤の分析を予定したが、研究協力者の出産・育児、実験動物の死亡と新規個体導入にともなう馴化・基礎訓練の必要性、飼育・実験室の移動、などが重なり、十分な検討ができなかった。以下には予備的なものも含めて成果を述べる。イヌとネコを対象に、第三者的立場からの人物評価を分析している。イヌが飼い主に非協力的な人物からの報酬の受け取りを避けるという負の感情的評価をすることはすでに示したが、ネコを対象にこれをテストしたところ、そうした傾向は見られなかった。他方イヌでは飼い主に協力的な人物に対して正の感情的評価をすることはなかったが、ネコでは協力的な人物からの報酬の受け取りが増大した。データはいずれもまだ十分ではないが、2大伴侶動物の義憤と賞賛という2つの対照的感情に見られる興味深い差違が見いだされつつあるかもしれない。また、リスザルを対象に、テーブルを手前に引いて自分と隣のサルに報酬がわたる課題を訓練し、自他に渡る報酬の量や質を操作して、向社会的行動の出現様態を分析した。その結果、メスは他集団の成員に対し報酬を与えるのをためらうことが示唆された。その他、デグーを対象にした不公平嫌悪に関する実験や、ネコを対象にした嫉妬的行動の分析も進行中である。さらに、現在Strasbourg大学のMuenier博士と共同で、コモンマーモセットの第三者評価と向社会的行動について分析を進めている。計画では鳥類を対象として分析をおこなう予定であったが、これは上記の理由で進んでいない。その他、感情に関連する2つの総説と3つの原著論文を出版した(印刷中含む)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
成果の欄に記載した理由で、残念ながら進捗状況は少し遅れているが、それでも霊長類とイヌ、ネコに関する検討では成果が得られているので、(3)と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
もう1年の猶予をいただいたので、現在までに得られている成果を確実なものにするとともに、予定していた鳥類の感情過程の分析を開始したい。具体的にはオカメインコの社会的場面における感情的応答を分析する場面を開発して、ほとんど研究のない鳥類の感情世界に光を当てたい。また、昨年度、サーモグラフィを導入したので、これを利用した体表温の計測による検討も開始したい。すでに、フトアゴヒゲトカゲを用いて、体表温計測を試行した。変温動物と恒温動物の違いがあるので直接比較は難しいが、これを鳥類に応用して、より大きな視点から感情の進化を解明するための足がかりを得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
主たる理由は3つある。第1に、中心的研究協力者が、妊娠・出産・育児により研究が遂行できず、代替の人材を確保することもできず、かつ研究代表者は多忙で、これを十分にカバーすることができなかったことである。第2に、一部の実験動物(オカメインコ)の死亡と、それに伴う新規個体の導入ならびにその馴化と初期訓練に時間を要したことである。第3に、一部の実験動物の飼育・実験施設であった学外実験室が移動し、設備の再構築に時間を要したことである。
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次年度使用額の使用計画 |
特に大きな設備備品の購入は計画していない。主として動物の飼育・実験に関わる消耗品費(飼料、報酬、文具など)、実験設備の維持費、研究協力者への謝金・謝礼、論文公表にかかる出版費用などに使用する。
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