高次感情はヒトどうしの相互作用を規定する重要な要因であり、その進化の過程を明らかにすることが本研究課題の目的である。平成27年度には、自身が相互交渉の当事者である場合に抱く高次感情の分析をおこなった。28年度には第三者的立場で抱く高次感情として、賞賛と義憤の分析を予定したが、諸般の事情により十分な検討ができなかった。29年度は28年度から継続して、リスザルを対象に向社会性行動の生起を検討した。リスザルは集団内成員に対しての方が、集団外成員に対してよりも、向社会的行動の生起が多くなることが示唆された。また、ネコを対象にした嫉妬的行動研究では、ネコの飼い主と見知らぬ実験者が物体(ネコのぬいぐるみ/クッション)を撫でる場面をネコに観察させ、その後のネコの行動を分析した。結果、飼い主がぬいぐるみを撫でていた時の方が、実験者が撫でていた時よりも、また飼い主がぬいぐるみを撫でていた時の方が、クッションを撫でていた時よりも、物体に対するネコの注視時間が長くなった。これは、ネコの嫉妬心的な感情の表れにつながるかもしれない。さらに本年度は、情動変化を生理指標でとらえる試みとして、変温動物であるフトアゴヒゲトカゲを対象に、ハンドリング後の体温変動をサーモグラフィーを用いて分析した結果、ハンドリングというネガティブな状況を経験した後には、体表面の最高温度(背中の温度)と鼻先の温度との差が有意に大きくなることが予備的に示された。
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