研究課題/領域番号 |
15K12050
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
平井 真洋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60422375)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 視点取得 / 定型発達 / 非定型発達 |
研究実績の概要 |
本研究では,社会的コミュニケーションにおいて重要な要素の一つである,他者視点取得能力を特殊なデバイスを開発することによって支援・向上させることを目的とした.他者視点取得とは,他者の見ている景色は自分の見えている景色とは異なることを理解する能力である.近年,非定型発達児における他者視点取得が不得手であるとの報告がなされている.更に,他者視点取得は,心的回転課題とは異なる方略でなされるとの報告がある.これまで申請者らは,低年齢定型発達児と非定型発達児は似たようなエラーを示すことを見出している.具体的には,他者視点が自己視点と異なる場合でも自己視点を回答する自己視点への偏りがみられる.本研究課題では,このような偏りを視覚フィードバックにより操作することにより,どのような影響が見られるかを明らかにすることを試みた.研究課題1では,このような変換操作を実現するための,フィードバック装置の構築を試みた.具体的にはモーションキャプチャシステムを用い,頭部の回転・移動をリアルタイムでトラッキングし,それに基づいた視覚情報をフィードバックするシステムを構築した.研究課題2では,それらのシステムに基づき,視点変換操作した際の,運動プラニング能力を定型・非定型発達児を対象に検討し,その発達軌跡を追った.結果,定型発達児において,視覚座標系の情報から身体座標系のような発達変化がみられるのに対し,非定型発達児では発達によらず,身体座標系の情報を利用する傾向がみられた.これらの知見は,他者視点取得課題遂行時においてことなる座標系の情報を利用することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り,研究実績の概要に示した二つの実験をベースにプロジェクトを進めた. 研究課題1)モーションキャプチャー装置を用い,頭部に装着したマーカーの位置座標に基づき,リアルタイムで視覚情報をフィードバックするシステムを構築した.本システムを構築することにより,頭部を固定せずに自由に動かすことのできる状況で異なる視点をフィードバックすることが可能となった. 研究課題2)研究課題1において構築したシステムを用い,自己視点を操作したフィードバックを与えた際の運動プラニング方略について定型発達児ならびに非定型発達児(自閉症スペクトラム児; ASD児)の運動課題成績の違いを明らかにすることを目的とした.自己視点とは異なる視覚情報をフィードバックした際の運動プラニング方略について,新たな実験パラダイムを用いて実施した.具体的には,運動計画課題を用い,自己視点から他者視点へと変換操作し,その運動プラニングの際に,視覚座標系もしくは身体座標系のどちらを用いるかについて検討した.その結果,視覚座標に基づく運動プラニングと身体座標系に基づく運動プラニングが拮抗した条件では,低年齢群の定型発達児では視覚座標系の情報にも基づき運動プラニングから身体座標系の情報に基づくプラニ`ングと発達的に変化するのに対し,非定型発達児では,発達によらず,いずれも自己身体座標系の情報に基づき運動プラニングすることが明らかとなった.さらに自閉スペクトラムの程度を特徴づける質問紙と視覚・身体座標系への偏りの関係性について調べたところ,それらのスコアと身体座標系の情報の間に有意な相関を見出している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で構築したシステムを用いた視点操作により,本研究計画書で提案した以外の他の認知機能がどのように変容するかを解明する.本研究提案で計画した視点の操作条件は一条件のみを検討対象としていた.しかしながら,本結果のみでは別条件の視点変換操作でどのような課題成績が変化するかについては明らかにできていない.今後は様々な視点変換操作を行うことにより,課題成績の変容過程について明らかにする.更に,視点変換操作に伴う,脳活動の変容過程を明らかにし,その神経基盤を定型・非定型発達児を対象に明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究によって見出された,視点変換デバイスによる視点操作によって,定型・非定型発達児で異なる課題成績が生じることを見出した.これは,定型発達児・非定型発達児で視覚座標情報と身体座標情報を異なる方略で利用している可能性が考えられる.このため,本仮説を検証するための追加実験が必要となった. これには,新たな実験系を構築する必要があるため,それらを実施するための人件費を計上する必要があるため.
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次年度使用額の使用計画 |
主として,研究実施のための人件費(研究補助員人件費,被験者謝金)として用いる予定である.
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