同じ景色を見ていても,他人の見ている景色は自分の見え方とは異なる.これを理解する能力は「他者視点取得」能力と呼ばれ,社会的コミュニケーションにおいて極めて重要な能力の一つであることが指摘されている.これまで,社会的コミュニケーションに困難を抱えるとされる自閉スペクトラム(ASD)症児は,他者視点取得が不得手であるとされ,特に自己視点に偏る傾向があることが指摘されている.申請者らはこれまで,定型発達児を対象とした研究により,他者視点取得には自己身体を操作する能力が関係することを示してきた.しかしながらいずれも言語による課題教示によるものが殆どであり,ASD児における他者視点取得における自動的な計算メカニズムについては不明であった.本研究では,他者視点情報を明示的に与えることにより,潜在的な認知過程にどのような影響があるかを検討した.本研究では,最終的に定型発達児43名,ASD児24名を対象とし,視点運動計画が視点変換操作によりどのように運動計画に影響するか検討した.実験では,被験者の手先位置をフィードバックするシステムを用い,ベースラインとしてモニター上に提示された絵に向かってリーチングする課題を実施した.その後,他者視点の映像を提示し,その際のリーチングが視点変換によりどのような影響を受けるかについて検討した.結果,定型発達児では,低年齢児ほど,第三者的な視点に引きずられやすくなり,年齢が上がるにつれて第三者的な視点にひきずられにくくなることが明らかとなった.一方,ASD児では年齢によらず第三者的な視点に引きずられにくく,身体座標系に偏りがみられることが明らかとなった.これらの知見を踏まえ,初年度に構築したシステムの有効性について,今後検討の予定である.
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