内容が理解され,記憶に残りやすいのはどのような音声であろうか.常識的には,魅力的で感情豊かな声は理解や記憶を促進し,笑顔でしゃべれば話の内容の理解や記憶も促されると考えるだろう.しかし,本研究ではそうした話し方はむしろ逆効果である可能性に着目する.具体的には,(1)音声の感情情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,(2)音声の魅力情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,(3)視覚情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,以上3点の検討を通して,記憶に残りやすい音声の要件を明らかにすることを目的とする. 平成29年度は上記項目(3)に関する検討を進めた.実験の結果,発話者が喜び顔であり,かつ観察者が発話者の口元を注視している場合に文章理解が促進された.音声の感情情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響(項目1),および音声の魅力情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響(項目2)は妨害的なものであった.これに対して29年度の結果からは,顔の表情の視覚情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響は促進的であることが示された. 上記の結果は表情そのものによる効果なのか,表情に付随した音声によるものなのかの切り分けができていなかった.そこで,本年度は追加実験を実施した.追加実験では,平成29年度の実験で使用した動画の音声のみの提示で同様の課題をおこなった.実験の結果,音声のみでは促進は見られず,顔の表情の視覚情報処理が音声言語の理解・記憶を促進するとの結論が支持された.
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