研究課題/領域番号 |
15K12055
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
越久 仁敬 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (20252512)
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研究分担者 |
中村 望 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (50450961)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 実行機能 / 再認記憶 / 前頭前皮質 / 呼吸位相 / 自律神経活動 / fMRI計測 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、意図的な呼吸制御を行いながら認知課題を行うデュアルタスクの確立と、fMRI計測による課題賦活の脳活性化領域の同定を行うことを目的とした。具体的には、1.課題正解率を向上させる呼吸の要素、パターンを見つけ出すこと、2.デュアルタスクを用いて、正解率を向上させる呼吸とそうでない自然呼吸を比較した際の課題遂行による脳活性化領域をfMRI計測より同定し、それらの活性化領域分布の違いを明らかにすること、3.呼吸位相に課題提示が同調させたときの課題正解率の違いを明らかにすることである。(1)と(3)に関して、健常者を用いた心理生理実験より、呼吸位相の違う課題提示が課題遂行の正解率に有意な違いをもたらすという画期的な成果を得た。この効果はさらに、どの認知および記憶のコンポーネント(例えば、エンコーディング、想起、行動の抑制制御など)が呼吸位相によって影響を受けて課題の正解率を変えたかについての詳細を明らかにすることができ、現在、論文投稿準備中である。(2)に関して、呼吸制御と課題遂行の関係についてこれまでほとんど報告がないという背景から、心理生理実験による研究を優先的に行ってきたが、fMRI計測による大脳皮質活動の研究についても、現在進行中である。さらに初年度の心理実験から、呼吸を測定しながら弁別課題を行ったときの自然呼吸パターンが4種類のタイプに分けられることや、副交感神経活動における効果も見出され、第93回、第94回日本生理学会大会、2016年北米神経科学大会で発表した。また、呼吸計測以外に心電図、瞳孔径の同時計測を行っていたため、今後、さらに自律神経活動における課題遂行時との関連性についても、検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目論見通り、研究開始から一年経過した時点で、呼吸位相の違う課題提示だけで、課題遂行の正解率を変えることができるという画期的な成果が得られた。さらに、この効果の精度を高めるために、心理生理実験を繰り返し、どの認知および記憶のコンポーネント(例えば、エンコーディング、想起、行動の抑制制御など)が呼吸位相によって影響を受けて課題の正解率を変えたかについての詳細を明らかにすることができ、現在、論文投稿準備中である。fMRI計測を用いた脳賦活パターンについての研究計画は遅れているが、本研究課題の礎となる認知課題と呼吸活動の関連性について、より精度の高い結果、すなわち、呼吸位相の効果は、想起や行動の抑制制御においてみられるが、エンコーディングの設定によっては効果が低減されることがわかり、今後、認知過程と呼吸活動の関連性について、さらなる効果が明らかになることが期待される。また、呼吸計測しながら認知課題を行ったとき、その自然呼吸パターンが3要素で構成される4種類のタイプであるという、計画にはなかった予想外の成果を見出した:1)周期的タイプ(45%の被験者)、2)呼息/吸息切り替えの早いランダムタイプ(28%)、3)周期的+呼息/無呼吸延長タイプ(21%)、4)呼息/無呼吸の超延長タイプ(6%)。これについても、今後、自然呼吸パターンの違いに関する成果が得られていくと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究において、以下の通りである: 1)これまでの心理生理実験で明らかにされた認知過程と呼吸活動の関連性について、生理研共同利用研究(愛知県岡崎市)にてfMRI計測下で健常者がこれまでと同様な認知課題を行い、特に前頭前皮質を中心とする賦活パターンを追跡し、呼吸活動と認知および記憶コンポーネントにおける神経基盤を明らかにしていく。 2)心理生理実験で得られた心電図と瞳孔径の同時計測で得られたデータを解析することで、課題遂行時と自律神経活動との関連性を明らかにしていく。また心理生理実験の呼吸波形から新しく見出された4種類の自然呼吸パターンについても、多角的に検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画を、より効率的・効果的に行った結果、直接経費を節約できた上で、研究成果を論文という形にまとめることができた。しかし、本研究で発見した、呼吸位相の違う課題提示が課題遂行の正解率に有意な違いをもたらすという効果は、課題の種類によって異なることから、被験者の行う課題のバリエーションを追加したことで、被験者数を増やすことになり、それに伴って、データ解析に割く時間が大幅に増えてしまい、想定以上に時間を要した。そのため、実際に論文を投稿する段階まで至っておらず、今後研究成果を示すための予算が必要となるため、予算を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
英文校正の費用、論文投稿の費用、論文が受理されてから必要となる費用、カラープリント代などに使用する。
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