本研究の目的は、二つの方向から見たとき全く異なる断面をもった柱体に見えるという研究代表者が発見した新しい錯視(これを多義柱体錯視と名付けた)の仕組みを明らかにし、その錯視が生じる立体の設計法を確立することである。 本年度は,まず多義柱体に厚みをつける方法を開発した.柱体側面の厚みは,二つの方向それぞれから見たとき場所によらず一定で,かつ二つの方向から見た厚みも同じに見えることが理想的であるが,一般にそのような厚みは存在しない.そこで,次善の策として,それぞれの方向から見たときの厚みを一定にする方法,一方向から見たとき見えない部分に切り込みを入れて見かけの上で二方向の厚みを一定にする方法,角の鋭さを犠牲にして二つの方向から見た厚みを一定にする方法,柱体の形に応じて厚みを内側と外側につける比率を変える方法の4つの発見的方法を開発し,柱体の形に応じてその中から最も適切なものを選択できるようにした.これによって,多義柱体の美しさが格段に向上した. 柱体と2次元図形を混在させることによる新しいタイプの多義柱体の設計法も発見した.シュレーダーの階段図形に代表される古くから知られて2次元多義図形に3次元的装飾を施し,斜めの二つの方向から見ることによって新しい視覚効果が得られ,この原理に基づいて多くの錯視立体も試作できた. 曲面を含む多義図形を紙工作で作るための展開図の計算法も開発した.これにより,3Dプリンターが使えない場面でも,多義柱体を自作し,それを直接見て錯視を体験できるようになった. 以上の諸成果を,視覚の仕組みを考える知育教材として.いくつかの出版社と協力して商品化することもできた.
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