研究課題/領域番号 |
15K12069
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小林 耕太 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (40512736)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 難聴 / 人工臓器 / 人工内耳 / ピッチ知覚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、低侵襲かつ非接触で聴覚を回復・補助する、近赤外レーザー補聴器を開発することである。近年、赤外光レーザーを神経に照射することで活動電位が生じることが明らかとなった。神経細胞膜中のイオンチャネルは一般に熱に対する感受性を持つため、レーザー光を神経細胞に照射し熱すること(5℃程度)で活動電位を誘発可能である。聴覚末梢(蝸牛神経)を生体外よりレーザーにより刺激することで、低浸襲・非接触で神経活動を誘発し、聴力を回復・補助することが可能になると私達は考えている。聴覚生理学における標準モデル動物であるスナネズミを対象として、聴覚末梢へのレーザー刺激に対する行動応答および神経応答の記録を行う。レーザー刺激に対する神経応答を音刺激に対する応答と比較しながら、刺激方法(レーザー刺激のパラメータ)を調整することで、自然な「聴こえ」を再建する手法を開発する計画である。本年度は、齧歯類を用いた生理実験と、ヒトを対象とした心理学実験を並行して実施した。前者の実験により、脳幹由来と推定される神経活動を誘発することに成功した。さらに、この神経活動は、クリック音を聴いた際に記録されるパタンに類似することが分かった。よって、被験体はレーザー刺激をクリック音と類似した音として知覚すると示唆された。後者のヒトを被験者とした心理学実験では、クリック音の周期を変化させることでレーザー刺激による“音”を再現できると想定し、このシミュレーション音声がどのような知覚を生み出すのかを検討した。結果、クリック音の繰り返しパタンを変化させることにより一定程度(統計的に有意な)の言語音の知覚を生み出せることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、齧歯類を用いた生理実験と、ヒトを対象とした心理学実験を並行して実施した。 先ず、レーザーを聴神経に照射する手法についても検討をおこなった。齧歯類(スナネズミ)を被験体とし、耳骨胞(auditory bulla)に穿孔し、光ファイバーを挿入し、卵円窓を刺激する方法と、外耳道に光ファイバーを挿入し、レーザーにより経鼓膜的に卵円窓を刺激する方法の2種類である。どちらの方法でも、赤外光レーザーを聴神経に照射することで、脳幹由来と推定される神経活動を誘発することに成功した。経鼓膜的に刺激する手法においては、レーザーが鼓膜を直接物理的に押すことで聴覚が産み出されている可能性があるため、コントロール条件として鼓膜の振動を減衰させる処理を行った。その場合にも、レーザー刺激に由来する脳幹反応は減衰しなかったため、レーザーが直接、聴覚末梢の神経系(および受容器)を刺激することで、神経活動が生成されている可能性が強く示唆された。また、この脳幹反応のパタンを音刺激に対する神経応答と比較した結果、クリック音を聴いた際に記録されるパタンに類似することが分かった。即ち、被験体はレーザー刺激をクリック音と類似した音として知覚する可能性が示された。 ヒトを対象とした実験では、赤外線レーザー補聴器のシミュレーション音声を作成した。この音声は言語音声のフォルマント周波数のピーク(F1、F2)および振幅の時間変化を抽出し、その情報にもとづきクリック列のピッチおよび振幅を変調させ作成した。日本語母国語者を被験者として、4モーラの単語を原音として作成した、シミュレーション音声の聴き取り実験を行った。結果、被験者全体の平均正答率はチャンスレベルより統計学的に有意に高かった(p<0.001)。シミュレーション音声は無意味な音ではなく、日常会話で用いる「ことば」として知覚可能であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
動物を対象とした実験については、本年度の成果によりレーザー刺激がクリック音として知覚される可能性が示された。しかし、この成果は聴覚伝導路の内、抹消および脳幹部の反応にもとづいた推定であり、実際に中枢においても同様(=クリック音列)としてレーザー刺激が知覚されているかについては依然不明のままである。来年度は、中枢からの記録及び心理実験を行い、“知覚・認知”のレベルでレーザー刺激が創りだす音の性質を同定することを目指す。そのために、(1)ピッチの変化に依存して生成する脳中枢の応答であるミスマッチ反応(Mismatch negativity)記録を行う。さらに(2)オペラント条件付け等の行動実験により、知覚内容を直接定量化する計画である。条件付けは長期間の訓練を要するため、訓練を要しない新規物体探索課題を応用する方法も検討する。これと並行して、レーザーが実際に聴覚神経を刺激している部位を同定する。光ファイバーの挿入角度・位置をCTスキャンにより計測する予定である。 ヒトを被験体とした実験では、本年度の成果により、レーザー刺激により一定程度の“聴こえ”を再現できる可能性が示された。一方で、被験者がレーザー刺激をクリック音と類似した音として知覚するかについてはまだ検討が完了しておらず動物実験の結果を引き続き参照する必要がある。また本年度用いた、言語音声をクリック音列に変換するアルゴリズムでは、再建できる”聴こえ”がチャンスレベルよりは良いものの依然充分とはいえない。よって(1)音声の変換アルゴリズムを改良する。これには人工内耳研究等に用いられる音声(雑音音声)との比較をおこなう。(2)シミュレーション音声の知覚を長期訓練した場合の“聴こえ”の向上を計測する。また、学習に相関する脳活脳の変化を定量化する。以上の実験を通して、レーザー人工内耳・補聴器をヒトへ応用する際に必要となる基礎データを収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
機材、被験体、薬品等の実験のために必要とする経費について、一部重複する研究計画について民間より助成金を得ることが出来たため、本計画の予算を使用することなく研究を遂行できた。 動物実験は当初予定していたよりも順調に進んだため、計画していた予算が一部必要なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は従来までの動物を対象とした生理学的、行動学的な実験に加えて、レーザー刺激法のヒトへの実用化を加速するため、ヒトを対処とした実験を実施する。 実験ではレーザー刺激音声の知覚を長期訓練した場合の“聴こえ”の向上を計測する。また、学習に相関する脳活脳の変化を定量化する。そのためfMRI(核磁気共鳴)を用いてヒトの神経活動を計測する計画である。 昨年度使用せずに済んだ予算はMRIの使用コストにを充当する予定である。
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