研究課題/領域番号 |
15K12080
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 裕一 京都大学, 学術情報メディアセンター, 教授 (40227947)
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研究分担者 |
渡辺 靖彦 龍谷大学, 理工学部, 講師 (10288665)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ユーザインタフェース / 接触によるコミュニケーション / 運動生理学 / 高次コミュニケーション / ソフトタッチ |
研究実績の概要 |
本研究課題では,機械と人間との接触が避けられない状況や,人間を誘導したり何かを教えたりする状況で,「触ったり軽く押したりする(以下ソフトタッチと呼ぶ)」ことによるコミュニケーションを対象とし,ソフトタッチによって自分の意図を伝えて相手の了解を得たり,相手から必要な協力を引き出すメカニズムを解析することを目的とする.これに対し,平成27年度は以下のように研究を進めた. (1) 複数筋の協働作用・拮抗作用と動作の関係を解析するための,肘周りの計測とモデル化を行った.腕に関しては,統制された静的な環境において,拮抗作用がある場合でも一定の精度で筋張力の推定ができることを既に発表しているが,実際の環境では,協働作用,拮抗作用が様々に変化すること,単独の筋だけを収縮させてキャリブレーションを行うことが難しいことから,協働作用,拮抗作用のパターン(主成分など)を求め,その成分の混合比を用いて,筋張力のパラメータ推定を調整する手法を検討した. (2) 筋骨格モデルを力学的な構造モデルとして近似し,それによって運動の動力学特性を解析する手法の検討を行った.動作の目的・意図,各部位の位置変化(及び外観),対象への作用に多様なバリエーションがある.意図による実際の筋収縮の大きさ,タイミングの違いとそれによる実際に発現する運動との関係を解析することによって,筋収縮の状態から運動を予測すること,逆に筋収縮の状態からその意図を知ることを目標として設定し, その手法の検討を行った. (3) ウェアラブルデバイスやロボットを用いて振動や力覚を提示することによって動作の誘導や教示を行うための基本的な設計を行い,基本的な動作を確認した.実際に,英国ブリストル大と京都大学の間で筋電位データの送受信を行い,それを用いた動作の誘導が実際に行えることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(a) ソフトタッチの解析には複数筋の協働作用・拮抗作用を詳細に解析することが必須である.統制された静的な環境において,拮抗作用がある場合でも一定の精度で筋張力の推定ができることを既に発表しているが,実際の環境では,協働作用,拮抗作用が様々に変化すること,単独の筋だけを収縮させてキャリブレーションを行うことが難しいことから,より良い方法が必要とされている.そのため,協働作用,拮抗作用のパターン(主成分など)を求め,その成分の混合比を用いて,筋張力のパラメータ推定を調整する手法を検討し,従来の手法よりも良い結果を得ている.
(b) 動作の目的・意図,対象への作用には多様なバリエーションがあり,意図による実際の筋収縮の大きさ,タイミングの違いとそれによる実際に発現する運動との関係を解析することによって,筋収縮の状態から運動を予測すること,逆に筋収縮の状態からその意図を知ることがソフトタッチ解析に必須となる.現在は,それぞれの意図を設定した場合の筋電位と位置を計測すること,その計測から推定される関節トルクを与えた場合に,シミュレーションとして動力学モデルで運動が再現できることなどを確認している段階である.まだ被接触対象からの反力をモデル化できていないため,シミュレーションとして完全なモデルとはなっていないが,接触前の各部位の位置・速度と筋活動の定性的な傾向は一致しており,今後の研究のための基礎が整ってきている.
(c) ソフトタッチそのものをロボットに行わせるのではなく,ソフトタッチと同じ効果や情報を相手に与えるデバイスも重要な研究課題である.そのために,本課題では,振動デバイスや皮膚を伸張させるデバイスを用い,実際に遠隔地間でその効果を確かめることができた.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 腕だけでなく,首,肩などの部位とソフトタッチには深い関連性がある.手の動き,頭部の運動,上体の緊張などの計測を行い,そこから,動き,注意,緊張感などを特徴として抽出する手法について検討したい.首は,頭部の運動の状態から注意や緊張状態を測ること注目した対象である.肩は体の姿勢を制御するための機能や緊張状態を表す性質を持っているため,腕や首の観測と合わせて用いれば,意図を推測するための良いデータを得られることが期待できる.
(2) 肩周りのように,単関節筋と二関節筋の間の拮抗作用,協働作用が複雑に発生する部位のモデル化も重要な課題である.協働作用,拮抗作用が関節角やその他の動的な条件に依存することは従来から想定されてきたことではあるが,実際にそれを扱うことは難しく,有効な手法は提案されてこなかった.本研究では協働作用のパターンを類型化し,各時刻での協働作用を典型的なパターン,またはその単純な複合で表す手法の有効性を確認していく予定である.
(3) 動力学シミュレーションにおいて,簡単なモデルが動作することは確認できたが,まだ被接触対象からの反力をモデル化できていない.今後,接触状態のモデルを導入し,実際の筋張力と実際の運動,動力学シミュレーションとの結果を定量的に突き合わせることにより,筋骨格モデルの詳細化と種々のパラメータ推定をより高度に進めることを予定している.これにより,意図の推測,動作予測などの精度が上がることが期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に新しく英語論文を書いたため,英文校正分が余分にかかってしまったため.
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次年度使用額の使用計画 |
金額としては大きくないので,平成28年度の物品(消耗品)の購入で調整する.
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