ソーシャルテレプレゼンスとは遠隔地にいる人とあたかも同じ部屋にいると感じる感覚であり,遠隔会議で対面会議を代替する際に重要となる.これまでのソーシャルテレプレゼンスの研究は,ビデオ会議システムをいかに拡張するべきかを探るという方針で様々な試行錯誤を繰り返すことによって,相手が自分の正面にいる状況の再現を目指してきた.そのため,それらの研究で開発された会議システムでは,常に正対の位置関係にある対話相手との間にディスプレイ面という仕切りが存在する.これに対して,相手の映像を自室の映像に重畳表示するミラー型ディスプレイではこのような仕切りが無く,相手と隣同士に座っている様子を鏡越しに眺める状況が再現されるために空間共有感が増す可能性がある.しかしながら,相手が隣にいるという幻想を持ち得るのは正面を向いて鏡(の役割を担っているディスプレイ)に注意を向けている間だけであり,実際に隣を見てしまうと相手がいない(映像すら無い)ために空間共有感が消える.そこで本研究では,隣に座っている(ことになっている)相手を直接的には眺められないように2人の間に衝立を置き,さらに,それによって空間共有感が薄まってしまうのを防ぐために,衝立越しに気配を伝えることを試みた.具体的には遠隔側にある椅子や机などのオブジェクトと同じものを衝立の向こう側に置いてアクチュエータでロボット化し,相手が着席などの動作を行った際にそのオブジェクトの動きで音や振動を再現した.
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