本研究では、遠隔地間でのヒューマンインタラクションを向上する上で重要となる温熱覚の双方向呈示に関してハードウェア、ソフトウェアの両面から研究を行い、「ペルチェエレクトロニクス」創成に資する研究成果を得ることができた。 1.フレキシブルペルチェ素子の大面積化に関する検討 ハードウェア面における研究成果として、昨年度の試作デバイスの評価を踏まえ、より大面積・フレキシブル化したペルチェ素子の開発を行った。フレキシブルシート上にビスマステルル半導体を直列に蒸着し、デバイス全体の厚さを2μmとしたことにより、熱電変換による効果を得つつ、断線しにくい構造となった。開発したフレキシブルペルチェ素子の性能評価試験では、温熱覚呈示にあたって十分な熱電変換効果を確認することができた。一般的に用いられるペルチェ素子は固く曲げることができず、力覚や面触覚と統合したインタフェースへの応用に限界があり、また温度分布の再現も困難であった。したがって、本研究により得られた研究成果は、従来からの問題を解決へと導くものであり、温熱覚呈示を実用化する上で意義深い。 2.温度分布の制御システムの検討 システム面の研究として、変化する座標系上の制御熱コンダクタンスの多次元化に関して理論の拡張を行った。具体的には、任意の複数の点において、接触対象から流入する熱量がどれだけデバイスの温度に影響するかを表す指標である制御コンダクタンスを空間的に変化させることに成功した。電気学会より電気学術振興賞論文賞を受賞するに至り、客観的に本研究の持つ学術的な新規性が評価された。 以上のように、本研究はデバイスとシステムの統合により、空間的な温熱覚分布を呈示するための基盤を築くことに成功した。
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