自然計算としての合成生物学は、多細胞生物をターゲットとできる段階に入ったが、均一に混合された空間構造を持たない細胞集団を小分子で制御する段階にとどまっている。空間構造を作る細胞群のモデルは、ピュア・アナログなチューリングの反応核酸方程式か、ピュア・デジタルなセルオートマトンをベースとしてきた。実際の細胞の挙動は個体差や少数揺らぎが大きく、これらのピュアなモデルでは実証できていない。本研究では、合成生物学的に実証可能な多細胞計算のモデルの提案を試みる。隣接する細胞が分子チャンネルを通じて情報交換する隣接細胞間通信系を用意した。計算機シミュレーションと同時に生物学的実装についての評価実験を検討した。これを発展させて空間構造を持つ細胞集団によるアナログ/デジタル計算の枠組みを提案した。空間構造を持つ細胞集団による機能実現は合成生物学のモデルとして新規である。また、実証可能なモデルの提案は、数理研究として新規である。提案されたアナログ/デジタル計算は、信頼性の低い素子群を用いて信頼できる機能を実現するひとつの典型例となりうるため、将来における工学的な有用性も期待できると考えた。結果的に当初予定してた動物細胞または大腸菌でのパターン形成ではなく、自然の温泉地に形成される微生物マットを題材として取り上げ、光条件をコントロールした複数サンプルを取り、メタゲノム解析を行った。光条件の変化によってマットを形成する微生物の属分布が変化する様子が観察された。また、人工遺伝子回路の要素回路を細胞内でカスケード接続する際には、電子回路等と同様にハイインピーダンス入力/ローインピーダンス出力の配慮が必要であることが分かった。
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