研究課題
本研究では,体調/加齢/障害によって動的に変化する睡眠状態(睡眠のリズムや深さなど)に対して,心拍データに隠れた潜在構造(「睡眠特性」と呼ぶ)を心拍データからマイニングすることで,高い精度で睡眠段階を推定する無拘束型睡眠段階推定手法を探究し,その有効性の検証を目的とする.具体的には,大量の心拍データから各人のウルトラディアンリズム(ノンレム/レム睡眠の周期)を構成する少量の周波数成分の組合せを睡眠特性として特定し,その効果を明らかにする.特に,平成27年度では,(1)同じ人でも体調によって睡眠のリズムは異なるため,その変動に「ロバストな」睡眠特性の抽出技術を探求した.また,(2)高齢者は加齢に伴い睡眠の深さは浅くなるため,その変化に「追従可能な」睡眠特性の抽出技術を探求した.本研究での成果がNew Mathematics and Natural Computation というジャーナルに採択されることをはじめ,AAAI (Association for the Advancement of Artificial Intelligence) 2016 Spring Symposiumという国際会議で3件の発表し,The 18th International Conference on Human-Computer Interaction (HCI International 2016) という国際会議に1件の論文が採択された.さらに,第40回日本睡眠学会シンポジウム,計測自動制御学会第43回知能システムシンポジウムにて発表し,本研究の成果を社会にむけて発信した.また,本研究での成果の一部を特許として申請するともに,ブリストル大学(英国)やスタンフォード大学(米国)と共同研究を開始した.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,体調/加齢/障害によって動的に変化する睡眠状態に対して,高い精度で睡眠段階を推定する無拘束型睡眠段階推定手法を確立するために,平成27年度では各人の睡眠状態を表す睡眠特性を見出し,(1)体調変化にロバストな睡眠段階推定と(2)年齢によって変化する睡眠状態からの睡眠段階推定に取り組んだ.その目的達成に向けて,(1)体調変化にロバストな睡眠段階推定に関しては,同じ人でも体調によって睡眠のリズムは異なるため,その変動に「ロバストな」睡眠特性の抽出技術を探求した.具体的には,特定日のみ推定精度の高い心拍変動の周波数成分の組合せで表される「睡眠特性」を見出すのではなく,複数日にまたがって推定精度の高い組合せを進化計算を用いて見出すことで,体調変化にロバストな睡眠段階推定方法を考案した.その結果,従来手法では睡眠段階を大きく誤って推定している箇所に対して,提案手法は正しく推定でき,かつ,従来手法に比べて精度を1.25倍向上させることに成功した.また,(2) 年齢によって変化する睡眠状態からの睡眠段階推定に関しては,高齢者は加齢に伴い睡眠の深さは浅くなるため,その変化に「追従可能な」睡眠特性の抽出技術を探求した.具体的には,高齢になるにつれて覚醒状態が増え,ノンレム睡眠が少なくなるため,過去の自分の睡眠特性と活用することで,各人の年齢を加味した「睡眠特性」を見出すことができるようになる.その結果,年齢を考慮しない通常の方法に比べて,睡眠段階の精度を向上させることに成功した.
今後の研究としては,申請書に記載された計画を進めることを基本とする.具体的には,体調/加齢/障害によって動的に変化する睡眠状態に対して,高い精度で睡眠段階を推定する無拘束型睡眠段階推定手法を確立するために,平成28年度では(3)障害によって変化する睡眠状態からの睡眠段階推定と(4)提案手法の総合評価を実施する.特に,無拘束型睡眠段階推定手法に関しては,(3)睡眠障害を患うと睡眠のサイクルが変わるため,その変化を「考慮した」睡眠特性の抽出技術を探求する.具体的には,正常時の睡眠段階ではノンレム/レム睡眠の周期がきれいに現れるが,睡眠時無呼吸症候群では無呼吸に陥るたびに睡眠の周期が乱れるため,無呼吸時に変化する体動から覚醒状態を特定する方法を考案し,睡眠障害を考慮した進化計算に基づく睡眠段階推定手法を考案する.また,(4)平成27年度から提案してきた3種類の進化計算に基づく無拘束型睡眠段階推定手法の総合評価に関しては,心拍データに隠れた潜在構造として見出された睡眠特性の個人差を分析し,提案手法の一般性について評価するとともに,高齢者介護としての提案手法の有用性と,睡眠時無呼吸症候群の判定に関して専門家から評価を受ける.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
New Mathematics and Natural Computation,World Scientific
巻: Vol. 11 ページ: 201-215
10.1142/S1793005715400062