本研究では,体調/加齢/障害によって動的に変化する睡眠状態(睡眠のリズムや深さなど)に対して,心拍データに隠れた潜在構造(「睡眠特性」と呼ぶ)を心拍データからマイニングすることで,高い精度で睡眠段階を推定する無拘束型睡眠段階推定手法を探究し,その有効性を検証することを目的とする.具体的には,大量の心拍データから各人のウルトラディアンリズム(ノンレム/レム睡眠の周期)を構成する少量の周波数成分の組合せを睡眠特性として特定し,その効果を明らかにする. 特に,平成28年度では,(1)睡眠障害によって変化する睡眠状態の推定(睡眠障害時の睡眠段階推定)と,(2)平成27年度で提案した睡眠段階推定を含めた提案手法全体の総合評価を実施した.具体的には,(1)正常時の睡眠段階ではノンレム/レム睡眠の周期がきれいに現れるが,睡眠時無呼吸症候群や不眠症(徹夜や時差ボケを含む)などの睡眠障害を患うと,頻繁に覚醒状態に陥るため,これらの状態を体動から特定する方法を考案し,その有効性を示した.特に,周期的なウルトラディアンリズムに基づく睡眠段階推定手法に,周期的ではない覚醒状態を特定する手法を組み合わせることに成功し,睡眠段階の推定精度を大幅に向上させた.また,(2)平成27年度から提案してきた3種類の無拘束型睡眠段階推定手法を統合したところ,統合による影響はなく(推定精度が下がらず),かつ,体調/加齢/障害によって変化する睡眠状態を適切に推定可能であることを明らかにした.さらに,睡眠段階の推定精度は個人差に大きく影響を受けることなく,提案手法の一般性を示すことに成功したことに加え,米国スタンフォード大学の睡眠専門の医師からも実応用できるレベルに到達しているとの評価を受けた.
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