研究課題/領域番号 |
15K12128
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
阪口 豊 電気通信大学, 大学院情報システム学研究科, 教授 (40205737)
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研究分担者 |
宇野 洋二 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10203572)
西井 淳 山口大学, 理工学研究科, 教授 (00242040)
井上 康之 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 研究員 (00644436)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 武術 / 身体操作 / 立位姿勢 / 筋活動 / 重心 / 制御モデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,武術の身体操作法の原理を解明してその特徴や機能的意味を理解し,ヒトの運動やコミュニケーションのメカニズム解明につながる知見を得ることである. 今年度は,武術における「個人単体での動きの分析」に焦点を絞り,以下の課題に取り組んだ. まず,武術的身体操作の例として「立ち方」に注目し,床反力計およびモーションキャプチャ装置を用いて身体の動きを計測した.床反力中心の振舞いを解析した結果,立ち方の種類によって床反力中心の特性(速度のばらつき等)が異なることが明らかになった.また,立位時に外乱を受けた場合の揺動の大きさがいかなる身体制御パラメータと相関が高いかを検討した.その結果,外乱に対する揺動を抑える上で,外乱に対するフィードバック応答の時間遅れやゲインの大きさよりも,外乱前の下肢筋(前頚骨筋等)の活動が重要であることを示唆する予備的結果を得た. 一方,立位姿勢を維持するには,重心の制御は求められるものの,支持多角形内であれば重心位置の変動は許容される.このことに着目し,姿勢制御の際に一意な目標関節角を陽に決めることなく,時々刻々の姿勢変動を許容する制御モデルを考案した.また,全身を使った到達運動中に外乱を加えるシミュレーション実験を行い,提案した制御モデルにより重心位置を支持多角形内に収めつつ,小さなトルクで到達運動が実行できることを確認した. このほか,身体の連動性を高めて発揮力を大きくする身体操作(「手の内」など)の効果を定量的に調べるために,体育測定器具を利用した計測実験を行った.しかし,発揮力の大きさを比較する方法では安定した計測が難しいことが判明し,実験方法を再検討することとした.一方で,「離陸」「滞り」といった関節や筋の堅さに関わる身体操作や現象については,筋活動計測によりその効果を実験データとして取り出すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた一部の実験では期待した結果を得ることができなかったものの,それ以外の研究内容についてはおおむね予想どおりの結果を得ることができた.また,複数の武術専門家と数回以上にわたりさまざまな議論を行ない,また,実技に触れることにより,複数の身体操作に共通するいくつかの原理・構造の理解が進んだことは大きな収穫である.このような原理の理解は,今後これらを自然科学の手法により実証するための基礎段階として,挑戦的萌芽研究に相応しい成果であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,初年度の実験を継続して行いその成果を論文等としてまとめるとともに,当初の計画通り,「二者の相互作用」(技をかける側と技を受ける側のとの関係性)について検討する.具体的には以下の課題に取り組む. 武術においては,自分の技に対して受手が速やかに反応できないよう,自己の運動意図が受手に伝わらないようにすることが重要であることから,運動意図が伝わりにくい身体操作法について分析する.具体的には,技をかける側の動作を床反力計やモーションキャプチャ装置により計測し,意図が伝わりやすい条件と伝わりにくい条件間での違いを明らかにする. 加えて,二者が物理的に接触した場面において技をかける側と受ける側の相互作用の機序について行動実験および制御モデルにより検討する.具体的には,技をかける側と受ける側の重心動揺や力のやりとりを計測するほか,この場面を単純化した物理モデルに基づき両者の力のやりとりや制御の仕組みについて検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画と比較して出張旅費や実験補助謝金の使用額が少なかった.
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度助成金と合わせて,主として物品費として使用する計画である.
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