研究課題
本研究は身体や行為が私のものであるという感覚(身体所有感や自己主体感)に関して、身体に非同期・不整合といった刺激を与えることで、日常とは異なる身体感覚を新たに生み出す実験系を構築し、参加者の主観報告に加えて生理学的・心理物理的計測により当該の現象を説明し、リハビリテーションやエンターテインメントなど多方面への応用方法を示すことを目指している。本年度は、3種の新規実験系を構築した。(1)前年度に開発した視触覚齟齬歩行装置を改良した。本装置は自身の身体位置に関する視覚情報と触覚情報にズレを与えるものであり、二重の位置感覚がもたらす変性身体感覚をつくることで、通常ひとつの位置感覚との比較を可能とする実験系である。初期開発機はカメラ・PC・ヘッドマウントディスプレイをそれぞれ独立に移動しなければならなかったが、カメラのみ独立に移動できるようにすることで、より柔軟にズレを増幅できるようにした。(2)歩行と移動の因果関係に焦点を当て、足を踏み出す行為に対して得られる結果としての位置変化を離散的に操作する装置を開発した。因果関係を壊すことで、日頃慣れ親しんだ行為に隠された多様性を明らかにするための実験系として利用できる。また、無脊椎動物の適応的行動についても同様に、行動に結果が伴わない実験を実施しており、比較認知的研究としても進めている。(3)他者との距離を音声に変換する装置を開発した。装置-対象間の距離を正弦波の周波数に対応付け、近づくとより高く、遠ざかるとより低く音が鳴る。センサー・PC・スピーカーをひとまとめにしており、装置を装着して移動できる。本装置は集団のコミュニケーションにおいて、異物が取り込まれる過程を調査するために用いられる。本年度は、ダンスの熟練者・非熟練者が即興パフォーマンスを行うワークショップに利用した。
2: おおむね順調に進展している
既存実験系の改良および新規実験系の構築を順調に進められている。
学術論文の執筆・発表およびワークショップなどによるアウトリーチ活動を行う。
実験消耗品の使用頻度が当初計画より少なかったため。
新規実験系での計測に必要な実験消耗品に使用する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
Artificial Life and Robotics
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計測自動制御学会論文集
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