(1)電場に応答して一方向へ移動する分子移動体の開発については,平成27年度から移動体と基板素材との非特異的な吸着が問題となっており,マイカ以外の素材として,基板上の脂質2重膜などを検討したが,結果として望みの特性は得られず,適切な吸着特性をもつ基板素材の選定が課題として残った. (2)電場に応答して繰り返し演算が可能な分子計算素子の開発については,平成27年度に構築した系(アクリルアミドゲルに,金ナノ粒子をつけたDNAをアンカーして電場をかけてハイブリダイゼーションを制御する系)の改良および精密化に取り組んだ.具体的にはキャピラリーにゲルとバッファーを満たした系を開発した.この系では,キャピラリーの両端のリザバーに電極を配置して電圧をかけることで,通電による加熱やPHの変化を最小限に抑えることが可能となった.また,電圧をかけた状態におけるDNAの位置は,ゲル中の金ナノ粒子の分布(赤く見える)をCCDカメラにより画像化することにより定量化した.この系をもちいた実験の結果,さまざまな電圧条件および異なる大きさの金ナノ粒子による引っ張りの下でデハイブリダイゼーション(2重らせんがほどけるプロセス)の時間発展特性が定量的に明らかにされた.特に,ゲル中に固定された一本鎖DNAに対して,金ナノ粒子を付けた一本鎖をハイブリダイゼーションさせるときの結合の向きがUnzipping か Shearing かにより,全く異なる挙動を見せることが分かった.以上の結果を論文にまとめ,論文誌に受理された.
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