微小流路系を用いた勾配形成によって、ヒト好中球様HL60細胞にたいして、走化性誘引分子fMLP(細菌が産生するペプチド)を高い精度で時空間的に変動、配置し、その運動と、先端形成に主要な役割を果たしているシグナルの活性化動態を生細胞測定から定量的に解析した。特に、昨年度作成したCdc42-Raichu(FRET蛍光プローブ)を発現する安定株を用い、fMLP濃度の時間変動に対するCdc42活性についてライブセルイメージングを中心に解析を進めた。その結果、Cdc42活性はfMLP投入後から数秒以内にピークの活性を示し、その後2から3分かけて元の活性を復元した。ピークに達するまでの時間は1nMから10nMとfMLPの濃度を上げると短くなり、約100nM以上で最短時間を維持した。適応時間は濃度が高くなるほど短くなり、100nM以上では若干のアンダーシュートが見られることから、フィードバック制御をうけている可能性が示唆された。また、fMLP刺激からの解除後は、Cdc42活性に負の応答がみられ、10nMでもっとも顕著であり、それ以下とそれ以上の濃度では弱いという単峰型の濃度依存性を示した。また負の応答の振幅は正の応答の振幅にくらべ、半分以下であった。さらにROCKの阻害剤であるY27632処理下におけるCdc42活性を解析したところ、適応時間がやや遅くなることが正の応答、負の応答でともに認められた。以上のことから、Cdc42活性応答の適応過程は、Rac活性を介した負のフィードバック制御によっていることが示唆され、これによる正負の応答の強弱の差異が波刺激への整流的な応答と関係している可能性がある。
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