研究課題/領域番号 |
15K12140
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
片平 健太郎 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (60569218)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 研究領域基準 (RDoC) / 精神疾患 / 統計モデル / 計算論的精神医学 |
研究実績の概要 |
精神医学の新しい研究アプローチとして研究領域基準(Research Domain Criteria; RDoC)が注目されている。RDoCは従来の疾患カテゴリにとらわれず,症状の実態に即した行動指標とそれに対応する生物学的基盤に基づいて精神疾患をとらえようとする研究方略である。本研究では,精神医学の基礎研究や臨床応用において,これまで中心的に用いられてきた疾患カテゴリベースの研究法と比べ,RDoCがどのような長所,および短所を持つかを理論的にあきらかにすることを目標としている。 初年度では,まずその理論的基盤構築のため,精神疾患の疾患因子がどのように行動や診断基準となる要因に表されるかということを表現する数理モデルを構築した。そのモデルをベースに,RDoCと従来の疾患カテゴリベースそれぞれにもとづく研究法において,疾患因子がどの程度の検出力で同定され得るかを計算機シミュレーションおよび理論解析により導いた。その結果,同じ疾患カテゴリに多数の疾患因子が関係している場合等はRDoCにもとづくアプローチで検出力がより強くなることがわかった。一方,疾患因子が比較的少なく,疾患カテゴリの分類基準が十分に多いときなどは従来型の疾患カテゴリにもとづく研究法が優る場合があることがあきらかとなった。これらの結果は,精神疾患についての基礎研究の今後の方向性を検討する上で有益な知見となると考えられる。この理論的枠組みにより,具体的な疾患や,RDoCの構成要素である研究領域・解析単位がどちらの状況に近いか,RDoCが実際の精神疾患研究においてどの程度有効であるか,等をあきらかにしていくことが次年度の課題である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度で予定していた理論的基盤構築および理論的解析は完了し,その成果は査読付きの論文誌に論文として投稿中である。したがって,現在までの進捗状況は概ね順調であるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度では初年度で構築した数理モデルに,実際のRDoCの構成要素である研究領域,解析単位を組み込むことで精緻化し,RDoCが具体的な精神疾患研究においてどの程度有効であるかを検討していく。さらにこれまで行われてきた精神医学に関する計算論モデル研究と,本研究で提案した理論モデルを理論的に結び付けていく作業をする。それにより,計算論モデルのどういったパラメータや構造がRDoCにおける特定の解析単位や構成要素と対応づけられるか,理論的な考察をする。それらの作業を通して,RDoCが既存の臨床知見をどの程度カバーし,従来の研究法よりも適切な治療法を提案できるか等の,RDoCの応用的発展性も検討していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度内に出版予定だった論文の出版が次年度にずれ込んだため,その出版費用分を次年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
数値シミュレーション用ワークステーション(約40万円)を購入する。研究会等での情報収集および研究打ち合わせのための国内出張を行う(約5万円×10回= 50万円)。英語論文の英文校閲費用と出版費用に約50万円を充てる。
|