研究実績の概要 |
精神医学の新しい研究アプローチとして研究領域基準(Research Domain Criteria; RDoC)が注目されている。RDoCは従来の疾患の分類の枠組みにとらわれず,症状の実態に即した行動指標とそれに対応する生物学的基盤に基づいて精神疾患をとらえようとする研究方略である。本研究では,従来の精神医学の基礎研究や臨床場面での応用においてこれまで中心的に用いられてきた疾患カテゴリベースの研究法と比べ,RDoCがどのような長所,および短所を持つかを理論的にあきらかにすることを目標とした。 初年度では精神医学の各研究法における,疾患因子の検出力を分析する理論的枠組みを構築した。2年目にあたる平成28年度ではその枠組みをさらに発展させ,精神疾患の生成過程モデルとしての計算論モデルを取り入れて具体的な精神疾患に対する研究方略を評価する枠組みを構築した。具体的な精神疾患の例として精神病の症状の生成過程を説明する計算論モデル (強化学習モデル; Maia & Frank, 2017) を取り入れたシミュレーションを行った。その結果,ドーパミン細胞の活動異常が症状の原因となるというMaia & Frank (2017) の仮定のもとでは,意欲消失等の陰性症状と幻覚等の陽性症状を分離して扱うRDoC的なアプローチが従来の診断カテゴリを用いる方法と比べてより高い検出力でその原因を見つけ出せることなどが明らかとなった。本研究成果は計算論モデルを用いて精神医学の研究方略を議論するための要素技術を確立したものといえる。
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