研究課題/領域番号 |
15K12141
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
大林 徹也 鳥取大学, 生命機能研究支援センター, 准教授 (80348804)
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研究分担者 |
古倉 健嗣 鳥取大学, 医学部, 助教 (30344039)
中村 和臣 鳥取大学, 生命機能研究支援センター, プロジェクト研究員 (90598137)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / インテグレース |
研究実績の概要 |
申請者らが開発してきたヒト人工染色体(HAC)ベクターは、遺伝子導入細胞や遺伝子導入動物作製に極めて有効なアイテムである。このHACベクターを発展させていくことでは、哺乳類細胞を人工遺伝子で創るときに必要な「人工染色体」として活用できると考えられている。本研究では、HACベクターにゲノム編集技術を導入することで、合成生物学やシステム生物学分野で有用なシステムを開発を目指している。申請者が2011年に論文発表したマルチインテグレースシステムは染色体の特定部位に外来遺伝子を効率良く導入できるシステムである。これを発展させて、任意の遺伝子の交換・除去を可能にするためシステムを構築した。このシステムでは、認識配列の異なる3種の部位特異的組み換え酵素(インテグレース)を用いた。3種の発光遺伝子と3種の蛍光遺伝子を組み込んだ遺伝子カセットを細胞中のマウス人工染色体ベクターに導入する。この細胞に3種のインテグレースを一過性に発現させたることで、インテグレースの発現によりこれまで発現していた発光遺伝子が除去されて下流の蛍光タンパク質が交代に発現する。インテグレースの発現をコントロールすることで、この細胞を最大7色に標識することを確認し、論文発表した。ただしインテグレースの種類によっては除去効率が低いものがあったため、効率の良い Cre/loxPシステム、Flpe/FRTシステムを組み合わせて、より効率の良いシステム開発に取り組んだ。さらにゲノム編集の効率化を図るために、Cas9が恒常的発現する組織幹細胞の樹立に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで開発していたマルチインテグレースシステムとゲノム編集システムを導入した人工染色体ベクターの作製に取り組んだ。CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集技術を利用するために、 Cas9発現遺伝子を導入してCas9を発現するシステムを人工染色体ベクターに導入することを目的の一つにしていた。しかしながら関連する技術の進捗などから、細胞レベルでの実験ではCas9の発現はリコンビナントタンパク質やmRNAの導入で充分であることが示されてきた。そのため、まず申請者が開発してきた人工染色体ベクターあるいはマルチインテグレースシステムの遺伝子改変動物作製への活用を先行することにした。目的のシステムが培養細胞で機能することを FEBS Opne Bio 誌に論文発表した。なおデータの一部は掲載号の表紙に採択された。生命システムの検証するためには、個体レベルの解析が必要であるため、開発したシステムをマウスROSA 26部位に導入したマウスES細胞を樹立し、発生工学手技によりこのマウスES細胞からキメラマウスを作製した。さらに交配により子孫伝達マウスの樹立に成功したが、培養細胞とは異なり、解析に必要な発光量が検出されなかった。当初の目的を果たすためには、より強力なプロモーターあるいはより明るい蛍光遺伝子の活用が必要であると予想された。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノム編集技術の活用に関しては周辺技術の開発状況を検討しながら進める予定である。人工染色体ベクターの導入された外来遺伝子はランダムインテグレーションによりゲノムに挿入されたものよりは安定に発現する傾向があるが、コピー数が限られることから十分な発現量が得られないことがある。バイオイメージングに関しては十分な発光が必要なため、培養細胞や初期胚を材料とした遺伝子改変に関しては人工染色体ベクターへののCRISPR/Cas9システムの導入以外の方法も検討する予定である。研究代表者は本研究とは別に実施していた研究テーマにてラット腎幹前駆細胞を3次元培養することで体内で起きている腎発生や腎再生といった生命システムを試験管内で再現することに成功した。現在、本研究で開発をしているゲノム編集スイッチを搭載した腎幹前駆細胞を作製するための有効な遺伝子導入法を検討している。今後は、ゲノム編集システムを導入した腎幹前駆細胞を活用して、試験管で引き起こされる種々の生命現象を効率よく観察・測定し、その現象をコントロールできるシステム開発を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム編集技術の活用に関しては周辺技術の開発状況を検討しながら進めた。オフターゲットなども問題からも、培養細胞や初期胚を材料とした遺伝子改変に関しては人工染色体ベクターへのCRISPR/Cas9システムの導入以外の方法も検討したが、導入遺伝子が1コピーであるため、その発現量が低く、個体レベルで解析するためには目的の解析に十分な発光量が得られなかった。そのため当初の計画を変更し、組織幹細胞に目的のシステムを導入し試験管内で発生を模した3次元培養で組織様の構造体を構築することで生命システム野コントロールを目指すこととした。そのため実施に遅延が生じ、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
開発したシステムを腎臓幹前駆細胞であるラットKS細胞に導入することで、腎臓発生や腎臓再生といった生命現象をコントロールできるシステム開発を行う。ラットKS細胞への遺伝子導入に関わる培養関連の試薬や消耗品に使用する予定である。また論文発表を計画しているため、論文構成や投稿費用にも使用する予定である。
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