申請者らが開発してきた哺乳類人工染色体ベクターは、遺伝子導入細胞や遺伝子導入動物作製に極めて有効なアイテムである。 この哺乳類人工染色体ベクターは、哺乳類細胞を人工遺伝子で創るときに必要な「人工染色体」として活用できると考えている。本研究では、哺乳類人工染色体ベクターにゲノム改変を導入することで、合成生物学やシステム生物学分野で有用なシステムを開発することを目指している。申請者が2011年に論文発表したマルチインテグレースシステムは染色体の特定部位に外来遺伝子を効率良く導入できるシステムである。これを発展させて、任意の遺伝子の交換・除去を可能にするためシステムを構築した。このシステムでは、認識配列の異なる3種の部位特異的組み換え酵素(インテグレース)を用いた。3種の発光遺伝子と3種の蛍光遺伝子を組み込んだ遺伝子カセットを細胞中のマウス人工染色体ベクターに導入する。この細胞に3種のインテグレースを一過性に発現させたることで、インテグレースの発現によりこれまで発現していた発光遺伝子が除去されて下流の蛍光タンパク質が交代に発現する。インテグレースの発現をコントロールすることで、この細胞を最大7色に標識することを確認し、論文発表した。さらにこれまでのシステムでは導入できる遺伝子数は1つであったが、ゲノム編集技術と組み合わせることで、複数の遺伝子を順次導入できるシステムを構築することができた。さらにこれらシステムを活用し、哺乳類人工染色体ベクター中に腎毒性マーカーであるKim-1遺伝子発現変動をレポートできるシステムを構築し腎毒性リポーター人工染色体ベクターを作成した。これをマウス腎近位尿細管由来不死化細胞に移入し腎毒性リポーター細胞を樹立した。さらに腎毒性リポーター細胞にシスプラチンやゲンタマイシンといった腎毒性物質を投与し、in vitro腎毒性試験法としての有用性を検証した。
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