野生の植物が呈する「固有の遺伝子発現パターン」は、固有の地質や気象、生態系によって形成される固有の生命状態を表し、かけがえのない生物情報である。しかし現在、この生物情報が気候変動によって急速に失われつつある。本研究では、網羅的な遺伝子発現解析(トランスクリプトーム解析)によって計測される生命状態を、人工環境システムによって再現する手法の提案と検証を目的とした。野外に自生する多年草の薬用植物(ツボクサCentella asiatica)を対象に、Iトランスクリプトームの情報構造を数理モデルとして縮約する技術、II植物工場によってそのトランスクリプトームを再現する技術、について基礎研究を行った。本研究は産業上も有用であるため、トランスクリプトームに基づいた伝統農業のデジタル継承、次世代農業(植物工場)の高度化に大きく貢献することを目指した。 Iにおいては、対象植物はゲノム未読であるためde novoシーケンシングによりリファレンス配列を取得した。また、概日時計の内部時刻推定において利用される「分子時刻表手法」を用いた、内部時刻推定法の開発を行った。IIにおいては、1)熊本県における自生環境下において2年間に渡るRNA-Seq解析の実施と、2)光と温湿度を自由に制御可能な植物栽培実験室において様々な時系列トランスクリプトームを得るためのシステム開発を行った。H29年度は特に、環境パラメータの変換を行い、植物工場で再現するための2次モデルを構築することを目指した。
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