研究課題/領域番号 |
15K12143
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡 浩太郎 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (10276412)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳ドラフトマッピング / 無染色イメージング / ラマン分光イメージング / ハイパースペクトル / 神経解剖学 / 主成分分析 / 神経情報学 |
研究実績の概要 |
27年度は特にラマン分光法およびハイパースペクトル法を利用して鳥脳の区分けを行う手法についての検討を進め、下記のような成果を得た。 (1)特定神経伝達物質のラマン分光法による検出可能性の検討 メス鳥海馬領域におけるさえずり情報処理には神経伝達物質セロトニンが関与していることが我々の先行研究から明らかになっている。そこで鳥脳から取得したラマンスペクトルによりセロトニン含有細胞を検出できないかの検討を進めた。具体的には脳スライス標本からラマンスペクトル像を取得し、その後その標本を抗体染色することにより、セロトニン含有細胞が存在するピクセルと存在しないピクセルについてスペクトルを比較した。またこれらの波形とセロトニン単体から得られた波形の距離を内積により定めることを進めている。また主成分分析法を利用して、脳地図を作成することも進めた。 (2)可視光域透過スペクトルを用いた鳥脳領域区分け方法の開発 ハイパースペクトルカメラは通常のカメラ(RGBの3つのスペクトルを利用)と比較して121バンドの詳細なスペクトル構造を取得することが可能である。今回このカメラを利用して、鳥脳サジタルセクションでの領域分割を試みた。まずArea Xと呼ばれている領域に着目して、この領域で得られたピクセル毎のスペクトル画像に主成分分析を試み、画像を色分けしたところ、無染色標本では見ることが難しかった神経投射を可視化することに成功した。また同様な手法を小脳に適用したところ、顆粒細胞層、プルキンエ細胞層を無染色標本から抽出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラマン分光法を利用したイメージング手法と121スペクトルバンドの可視光領域の透過スペクトルが取得可能なイメージング手法を併用して、簡便に脳領域分けを行うための新規手法の開発を進めてきた。27年度は当初計画通りに研究は進行した。 ラマンスペクトルを利用した解析方法に関しては、当初計画のように、取得波形に主成分分析法を利用することにより、特定領域を抽出することに成功している。一方で抗体染色法では明瞭に識別されているセロトニン含有細胞を単一細胞レベルで検出するには至っていない。他の神経伝達物質への利用の可能性を含めて今後も検討を進める。また一方でまず主成分分析法でのマッピングを進め、従来報告されている脳地図と比較し、その相違点を洗い出す方向の研究(従来報告されていないようなサブ領域を検出するなど)も試みる。 ハイパースペクトルカメラによる領域分けは、小脳など明瞭に領域分けができている部位に関しては従来法と同様な結果が得られてきている。一方で海馬領域などの先行研究では領域分けの報告が複数行われている部位に関して本手法を適用し、先見的な知識を利用することなくどの程度の領域分けができるのかを明らかにすることを進める。
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今後の研究の推進方策 |
27年度の結果を踏まえ、下記のような項目について研究を進める。 (1)ラマン分光法を利用した脳領域の無染色分類法の確立 神経伝達物質セロトニンを検出するための情報論的な手法を整備する。合わせて脳標本に直接濃度の異なるセロトニンをインジェクションすることにより、セロトニンスペクトルが検出できるかを調べる。併せて無染色標本から取得したラマンスペクトルに関して、主成分分析以外の手法(独立成分分析など)による脳マッピングの可能性を検討する。 (2)ハイパースペクトルカメラによる領域分け 従来領域分けが十分には行われていない鳥脳の脳幹部位について主に主成分分析法を用いたマッピングを試みる。また従来より行われてきた神経系の蛍光染色方法(例えば神経細胞、ミエリン、細胞核のマルチカラーイメージング手法)や神経細胞形態の可視化手法(例えばgene gunを用いて脂質を染色する蛍光色素をランダムに脳標本に導入する方法)を利用して、マッピングした領域と神経細胞構築との関係を明らかにする。 (3)上記異なる2つの方法を併用することにより、簡便かつ再現性よく構造未知の脳のドラフトマッピングを行う手法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度当初計画では特定神経伝達物質の可視化像をラマンスペクトル画像と比較する研究を広範に行うことを計画していた。特に抗体染色法を用いて神経伝達物質セロトニンの可視化像を取得することを計画していたが、イメージング装置である共焦点レーザ顕微鏡のマシンタイムの確保が年度末困難であったこと、またセロトニン抗体の国内在庫がやはり年度末になかったことから、当初計画した回数分だけ染色実験を行うことができなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
研究は当初計画に従って順調に進捗しており、問題となっていたイメージング装置のマシンタイム確保も抗体入手も現在は可能となったため、研究計画の変更などを行うことなく、28年度研究を進める。
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