3塩基を単位とする鋳型指示反応を土台として原始地球環境下における複製系を構築し,RNAが自発的に化学進化する実験系を構築することをめざし以下を検討した. (1)原始酵素モデルとして,180℃以上でグルタミン酸から生成したタンパク質状物質の,RNA生成反応に対する効果を検討した.(2)5'末端をリン酸修飾した,2~6鎖長のオリゴヌクレオチドをモノマー単位として鋳型指示反応を検討した.この際,モノマー単位となるオリゴヌクレオチドはA,G,U,Cからなくホモオリゴヌクレオチド,およびGとCを含むモノマー単位とした.鋳型として種々の鎖長(モノマー単位の2~4倍の鎖長)のワトソン・クリック型塩基対を形成する相補的な配列をもつものを用いた.縮合剤として水溶性カルボジイミドを用いた.これによってイミダゾールを共存下で5'末端リン酸基がイミダゾリドを生成し活性化される.(3)反応生成物のHPLC分析手法を検討した.とくに,Gを多く含む系では4量体の生成によって分析が困難になるため,それらの前処理を検討した.(4)反応を促進する方法として,触媒としてZn(II)の効果を検討した. 以上の諸条件を広範な範囲で網羅的に検討した.しかし,これらの系で効率良く鋳型指示反応が進行する証拠は得られなかった.これらの酵素なしの鋳型指示反応が進行しないことを証明する結果とは言えないが,鋳型指示反応は困難であることを示している.現在,RNAワールド仮説においてRNAが自発的に複製することが化学進化によって達成されたはずであるとする考えが広くあるが,本結果はその前提を否定する重要なものである.同時に,RNAの鋳型指示反応を水中で行うためには酵素内と類似の反応環境が必要であったことを示唆している.例えば,鉱物の細孔や表面はその候補である.
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