研究課題/領域番号 |
15K12146
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
渡部 匡己 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 特別研究員 (70599480)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生物画像シミュレーション / 全反射顕微鏡 / レーザー走査型共焦点顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、実験物理で有効な定量化の方法を 応用して、生化学反応ネットワーク理論と実際の細胞画像の相違を光子数単位で埋めるための新しい試みである。研究は、ほぼ予定通りに進んでいる。平成27年度は、全反射顕微鏡とレーザー走査型共焦点顕微鏡の観測プロセスに組み込まれた変数を自由にコントロールできるインターフェイスを構築して、観測プロセスを「重ね合わせの原理」に従って光子数単位でモンテカルロ・シミュレーションを実行できる計算システムの開発を進めた。シミュレーションの結果は、設定した変数値が反映された計算画像がアウトプットとして生成される。よって、光子数単位で、実画像と計算画像の比較が可能となり、その研究の成果をPLoS ONEに発表した。 現存のシミュレータでは、計算時間を省くために、光学系や蛍光物理のシミュレーションはシンプルな仮定に基づいた計算が行われている。より精密な計算画像を生成するためには、より物理原理に基づいた計算を行う必要がある。具体的には、(1) 光電子倍増管の暗電流や読み出しノイズ・シミュレーション (2) 照明系とPSF形成プロセスの光学シミュレーション (3) PSFの波長依存性 (4) PSFの正規化問題 (5) 蛍光物理シミュレーション を課題としていたが、やはりプログラムの最適化がボトルネックとなっている。これら5つの中で、今後の精度解析を行う上で最も重要となる、(5)蛍光物理のモンテカルロ・シミュレーションを重点的に進めた。具体的には、ランベルト・ベールの法則、光退色、光ブリンキングのシミュレーションを実装した。また、(5)以外の課題には、モンテカルロ法ではなく、理論式の解析解などを用いたシンプルな計算方法で対応した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記であげた5つの課題を計画していたが、やはりプログラムの最適化がボトルネックとなっている。これら5つの中で、今後の精度解析を行う上で最も重要となる、一分子計測をする時に、光退色などの光学的な特性が、一分子計測における解離定数の解析に影響するため、蛍光物理のモンテカルロ・シミュレーションを重点的に進めた。具体的には、ランベルト・ベールの法則、光退色、光ブリンキングのシミュレーションを実装した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、引き続きシミュレータの構築・実装・最適化を行う。また、応用例を一つ示す。応用例として一分子追跡法の精度の検証・評価をする。全反射顕微鏡法のシミュレーションから得られた一分子画像データを使って、一分子追跡法による拡散定数や解離定数の解析の精度(不確定性、上限、下限など)を求める計算をする。 蛍光分子の光学的特性は蛍光物理に従い、波長、光退色時間、光子合計数(フォトンバジェット)、ダーク状態などが、実験系の環境・状態や変数値の変化によって決まる。現存のシミュレータでは、蛍光物理のシミュレーションが可能になり、蛍光分子の特性(光退色や光ブリンキング)を考慮した一分子粒度細胞シミュレーションを実行することができる。よって、蛍光分子の時間・位置・退色の状態などの物理量の「真の値」を記録できる。また、全反射顕微鏡のシミュレーションを実行して得た一分子画像データを解析することで物理量の「解析解」が得られる。それら「真の値」と「解析値」の差異を利用して、拡散定数と解離定数の解析の正確性・精度を計算をする。具体的には、以下の3つを計画している。 (1) 細胞モデルの構築(HRG-ErbB受容体の二量体モデル) [Hiroshima et al. PNAS (2012)] (2) 光退色と分子の解離イベントを区別するための選択アルゴリズムの構築 (3) 一分子追跡法による拡散定数と解離定数の解析における精度の計算(感度解析)
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、海外で行われる学会に参加するために海外出張の旅費に割り当てること予定していたが、国内での学会と時期が重なったため、やもえず参加することを断念した。
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次年度使用額の使用計画 |
余った額すべてを旅費に充てる。
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