研究課題/領域番号 |
15K12152
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 豊 京都大学, 情報学研究科, 教授 (00135526)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 待ち行列 / モデル化 / 解析評価 / ネットワーク / 情報システム |
研究実績の概要 |
ネットワーク仮想化を目指すSDNでは、パケット転送処理について、経路制御を司るコントロールプレーンと転送処理を司るデータプレーンとに機能分離を行う。これまではスイッチ・ルータのベンダー毎に異なる仕様が実装され、新規機器の導入・更新、アプリケーションに応じた適切なQoS保証の設定などには大きな人的コストと時間を要してきた。これを回避するために経路制御を行うコントローラと転送処理を行うスイッチに分割し、前者は標準化を図り、後者は単純処理だけで済むコモディティ化を進めている。これらコントローラとスイッチを連携させる代表的インターフェースとしてOpenFlowがある。OpenFlowは標準化が進んでおり、実装プログラムも公開されているが、これを実装した場合の各スイッチにおける基本的なシステム性能および広範囲に及ぶネットワークへの適用可能性に関しては十分な検討がなされていなかった。 本研究ではOpenFlowスイッチにおけるパケット転送処理およびコントローラにおける経路問い合わせ処理に際して発生する遅延分布および滞留パケット数分布などの確率的挙動を明らかにすべく、スイッチとコントローラをサーバとする数理モデル化を行い、理論的性能解析を行った。モデル化にあたっては経路制御がフロー単位で行われることを考慮し、その特徴を表現可能な数理モデルの開発に留意した。解析結果を基に平均転送遅延、パケット廃棄確率、スループットなどの性能評価量を導出した。数値計算実験を行い、スイッチおよびコントローラの処理速度と性能評価量の関係およびコントローラに接続されるスイッチ数へのスケーラビリティに関する知見を得た。またSDNにおいてはフロー単位での制御が可能になるため、少数パケットからなるマイス的フロー、多数パケットからなるエレファントフローなどフローの属性による性能比較も数理解析的なアプローチで行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネットワークのモデル化と性能評価に関わる英文書を1冊編集し、査読付き英文論文5編と和文論文1編を出版、査読付き国際会議論文1編を発表、その他口頭での発表を7件行うなど現在までの研究達成度は目標に十分到達していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
SDN はまだ限られたネットワークでの試験的運用がなされているだけで、より広範囲な普及には解決すべき課題がいくつか存在し、前年度の研究成果を基に次のような研究を遂行する。その中でも、コントローラに経路情報の問い合わせが集中し、ここでの処理がボトルネックになり、ネットワーク規模の増大に伴うスケーラビリティの検証とボトルネックの影響緩和に向けて次の計画で研究を遂行する。 1. コントローラに問い合わせが集中すると、処理遅延が増大するだけではなく、バッファサイズの制約のため、処理要求そのものが廃棄される可能性がある。これに起因してスイッチでは、当該フローに属するパケットが大量に滞留する。従ってコントローラおよびスイッチでの適切なバッファサイズの設計は重要な課題である。このためのトラヒックモデルおよびその解析手法を開発する。 2. SDN 実装に長けているニュージーランド国立ヴィクトリア大学ウェリントン校Seah 教授の研究グループの協力を得て、実ネットワークにおける実測データを収集し、数理モデルから導かれた結果と実測値との比較を行い、数理モデルの妥当性と解析結果の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究調査および成果発表の旅費を見込んでいたが,運営費交付金など他の財源で予算を確保できたため,今年度に執行予定した予算は来年度において当初計画よりも成果発表数が増加が期待される論文誌原稿作成料および国際会議発表旅費に使用しより一層の有効活用を図ることにした.
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次年度使用額の使用計画 |
論文誌原稿作成に関わる経費と国際会議発表に伴う旅費が当初計画よりも膨らんでおり、これらに使用を予定している。
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