研究課題
たくさんの魚が水中を活き活きと泳ぐような水中シーンの表現は、アニメーションやゲームをはじめとした多くのコンテンツにおいて必要とされている。魚類は全体でおよそ28,000 種と非常に高い多様性を有している。ごく限られた海域に限定しても、例えば、日本の若狭湾で83種、ハワイのハナレイ湾で150 種もの魚種の生息が確認されている。したがって、リアルな水中シーンを描くためには、魚の種類や、魚を取り巻く状況の変化によって生じる泳ぎ方のバリエーションを的確に再現することが重要な問題となる。水中シーンに現れる多数の魚に対して、このような泳ぎ方のバリエーションをキーフレームアニメーションで作り込むのは非常に難しい。また、ゆったり泳ぐか小刻みに素早く泳ぐか、どこまでも自由に泳ぐか同じところを旋回するかといった泳ぎ方の特徴を、クリエータが容易に指定できることも必要となる。本研究期間では、魚類の骨格の違いによる泳ぎ方のバリエーションや状況変化による泳ぎ方のバリエーションを統一的に再現する統一的モーションプランナーを開発した。我々の手法のキーアイディアは、生物学的知見を参考に、「どこへ泳ぐか」「どのように泳ぐか」を瞬間的に決定する意思決定機構があることを魚類の遊泳に共通の仕組みと考えたことである。統一的モーションプランナーは2つのステージから構成されている。第1のステージでは、どこに泳ぐかを決める。知覚情報を統合して生成した確率分布を用いて、短期的な目標位置と目標速度を決める。第2 のステージでは、どのように泳ぐかを選択する。現在の速度帯から目標とする速度帯への遷移情報にマッチした泳法を選択する基本手法を実現した。
1: 当初の計画以上に進展している
CG分野のトップコンファレンスであるSIGGRAPH 2016 Technical Paperに採択になった。提案手法を用いることで、Manta ray やTuna、Boxfish など、サイズやスケルトンの構成が全く異なる12 種類のCGモデルや数千匹規模の魚群をリアルに泳がせる様子を示した。本手法は、既存のグラフィックスパイプラインに組み込みやすく、パラメータを調整することで動きの特徴を容易に変えることができ、さらにトルネードや旋回といった魚群全体の表現をトップダウンに指定できる特長がある。公開予定のアニメーション作品のプロダクションで使用されている。
本手法を発展させて、適度な乱雑さを導入した群集シミュレーションや、魚のヒレなどの詳細な運動を生成する手法を検討する。また、魚と人・環境の社会的相互作用を生成するための基本手法の開発や、GPUを利用した高速化などの検討を行う。映画制作への協力は引き続き行い、HMDを利用した仮想ダイビングシステムの開発などの応用も検討する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
ACM Transactions on Graphics (Proceedings of SIGGRAPH 2016)
巻: Vol.35, No.4 ページ: 1-15