研究計画調書では平成28年度は「PTR-MS を用いた微量気体成分の測定」、「同位体ラベリングを用いた起源特定」を行う予定としていた。しかしながら、大幅な研究費の削減により、PTR-MSの輸送費及び同位体ラベリングを施した標準試料の作成を行うことができなかった。そのため、前年に行った放電実験を発展させる形で研究を進めた。前年度までの放電実験の結果から、気相中での硝酸・亜硝酸塩の生成が起きている一方で、海水中でもわずかながら硝酸・亜硝酸塩の生成が起きていることが示唆された。そこで放電の水中への貫入が硝酸・亜硝酸を作っている可能性を、放電が水中へ貫入しない河川水を用いることで検証を行った。また、大気中でオゾンとの反応が起きると質量比依存同位体分別(MIF)が起きることが知られており、放電による硝酸・亜硝酸の生成におけるMIFが起きているかどうか検証を行った。さらに、有意な生成が起こっていることを確認した亜酸化窒素に関してもMIFが存在するか検証を行った。 硝酸・亜硝酸の分析はまだ行われておらず、今後の分析の結果から放電の水中への貫入と硝酸・亜硝酸塩の生成の関係性を明らかにする。硝酸・亜硝酸のMIFについて、顕著ではなかったがわずかにMIFと思われる同位体比を示すことがわかった。これは硝酸・亜硝酸が生成される際に放電によって生成したMIFを持つ周囲のオゾンの酸素原子がその生成に関わっていることを示している。また、亜酸化窒素は捕集トラップが生成した亜酸化窒素を十分に保持することができず、予想された濃度よりもはるかに低濃度となってしまい、十分な精度での測定をすることができなかった。 本研究で得られた成果はまだ発展性が高いものばかりであり、ターゲットを絞った継続的な研究が進められることが望ましいと考える。
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