研究課題
日本近海および地中海において宝石サンゴのサンプリング調査を行い、アカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴ、深海サンゴ、ベニサンゴの5種を採取した。宝石サンゴの骨軸は白色から黒みがかった赤色までを呈し、同一種内でも色の変化は大きい。それぞれの骨軸のL*a*b*値を分光式測色色差計で計測して、各宝石サンゴの色彩の特性を色相、彩度、明度により定量的に評価した。同一種内の試料間では色相、彩度には大きな差は見られなかったが明度が異なった。次に、マイクロスコープ-高精度色彩解析法により微細な二次元分布像をマイクロメートル単位で測定し、ベースとなる白色の骨軸上で、各宝石サンゴに特徴的な色素成分が数百μmの間隔で同心円状の帯を形成することを明らかにした。骨軸から抽出分離した色素成分を高速液体クロマトグラフ質量分析装置で同定した結果、有機色素の主成分はカロテノイド色素のカンタキサンチン類で、宝石サンゴの種類によらず同一であった。骨軸中色素成分と調和性の高い元素としては、アルカリ土類元素および硫黄、リンに注目した。前者は骨軸主成分結晶でカルシウムと置換されやすく、後者は有機物の構成元素であることから、宝石サンゴの色素物質を識別する指標として期待できる。アルカリ土類元素については、放射光蛍光X線マッピング分析において、アカサンゴの骨軸中心部周辺でバリウムの高い値が検出され、骨軸形成に関与していることが示唆された。リン・硫黄については、放射光軟X線吸収分光による非破壊分析により、いずれの試料においても硫黄とリンを確認することができたものの、宝石サンゴの種や色彩に依存した違いは観察することができなかった。以上より、初年度の検討において、宝石サンゴ炭酸塩骨格の色彩を司る鍵物質としてカンタキサンチンを同定し、その他にバリウム等の無機元素が骨軸形成過程に関与する可能性を明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
計画した目標を達成し、宝石サンゴ炭酸塩骨格の色彩を司る鍵物質が宝石サンゴの種類によらずカンタキサンチンであることを明らかにした。論文や学会における成果報告、宝石サンゴに関するアウトリーチ活動も積極的に進めている。
宝石サンゴの色素成分は、サンゴの種類や色彩によらず骨軸に含まれるカロテノイド色素のカンタキサンチンであった。骨軸中でカンタキサンチンが様々な色彩に変化するためには補助成分や存在形態が重要と想定されるため、色素成分の固定や助色等の役割を果たす補助成分の解析や色素成分自体の微細な分布構造について検討を進める。また宝石サンゴはカロテノイドを合成できないため、餌から摂取していると考えられる。色成分の起源を明らかにするために、宝石サンゴの食性を炭素・窒素安定同位体比を用いて明らかにする。更に骨軸中色素成分と調和性の高い元素としては、窒素の化学形態から解析を進める予定である。有機物の主たる構成元素である炭素・酸素は、炭酸塩の主成分と重複するためこれらを色素の指標とすることは難しいが、前年度に二枚貝殻などで予備測定を行い、窒素信号の検出ならびに軟X線吸収スペクトルの取得に成功している。今年度は、宝石サンゴを対象として窒素分析を進める予定である。
天候不順により、予定していた宝石サンゴ試料の採取が遅れて、その購入が年度をはさんで遅れるため。
次年度に宝石サンゴ試料の購入に使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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