研究課題/領域番号 |
15K12187
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中川 書子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70360899)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 水 / 三酸素同位体組成 / 酸素同位体組成 / 水素同位体組成 |
研究実績の概要 |
水循環の理解は、気象学から水文学、農学、土木工学に至る幅広い分野にとって重要な課題の一つである。そのため、地球規模から国や地域レベルに至る多様なスケールで、多様なツールを用いた水循環研究が盛んに行われている。その中で、水の蒸発および凝縮過程で定量的に変化する酸素・水素安定同位体比が、水循環の有用な指標として活用されるようになって、半世紀以上が過ぎた。しかし、安定同位体比も万能では無く、現在利用されている安定同位体比では解明できない事象も多い。そこで本研究では、水の三種の安定同位体の相対比(三酸素同位体組成)を、水循環の新指標として活用できるかどうかを確認する。初年度は、まず既存設備である水の三酸素同位体組成の高精度分析システムの改良や水試料処理システムの構築を行い、様々な環境水試料の三酸素同位体組成を定量できるようにした。そして、水蒸気の起源が大きく異なると考えられる国内の四カ所の観測地点で採取された降水試料の三酸素同位体組成を定量した。また、大気中の水蒸気を捕集し、温度や湿度の違いによって水蒸気の三酸素同位体組成がどのように変化するのか確認した。その他、火山ガス試料中の水蒸気の同位体組成の定量も行った。環境水試料中の三酸素同位体組成は、水素・酸素同位体組成とは相関してないことが確認できたことから、三酸素同位体組成から、新たな情報を引き出せる可能性が大きいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標は、様々な環境水試料の三酸素同位体組成を高精度で定量できるようにすることである。環境水試料の蒸留システムや水蒸気試料の濃縮システムを構築することにより、様々な水試料の三酸素同位体組成を定量可能とした。また、水の三酸素同位体組成を高精度で定量する条件を決めるなど、初年度の目標は概ね達成されたと考えられる。湖沼水や火山ガスの凝縮水の同位体組成の結果は、湖沼の一次生産の計算や火山の遠隔噴気温度測定の計算に利用され、その成果は学会発表を通じて報告している。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は、様々な環境水の循環像を可視化することを目指して、地下水系をはじめ湖沼、雪氷、水蒸気といった様々な環境水試料中の三酸素同位体組成の定量を進め、その有用性を検証する。浅層地下水調査は、一般的な化学データの蓄積が豊富な富山県(立山)の地下水系と富士山の地下水系で行う。降水と地下水の結果を元に三酸素同位体組成の水循環の指標としての有用性や問題点を考察する。水試料について、三酸素同位体組成と水素・酸素同位体組成を比較するとともに降水試料とも比較し、その異同を確認し、大きく異なる場合はその原因を検討する。例えばある場所の地下水の同位体比が、その地域の天水の同位体比と大きく異なる場合、それが地下水の移動を反映するのか、それとも降水の同位体比が年代によって異なることを反映するのか見極める。このため、同じ地下水について涵養年代や各種パラメータを入手し、それらとの関係を考察する。地下水の年代や各種パラメータは基本的には文献値等を利用するが、必要に応じて専門機関に依頼分析を行うなどして、本研究で新規に分析する。
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