対流圏のオゾンは活性なBr化合物と反応することで激減する。そのため、Br化合物の起源と生成機構を解明することは、大気の酸化容量を理解する上で重要である。そこで、本研究では、Br化合物の存在形態(水溶性、水不溶性など)および存在形態に影響する反応機構を解明することで、Brの大気中での挙動を明らかにすることを目的に研究を実施した。 平成29年度は、実験室内においてエアロゾルのモデル水溶液を調製し、様々な条件下で波長313 nmの光を照射することにより、臭化物イオンがどのような形態へと変化するのか確認する実験を行った。臭化物イオン、有機物、OHラジカルの発生源である過酸化水素を混合した溶液をモデル水溶液とした。 実験では、過酸化水素の光分解により発生するOHラジカルの約70 %が臭化物イオンと残り約30%が有機物と反応する条件とした。モデル水溶液中の臭化物イオンはOHラジカルの70 %と反応し活性化することで最終的に気相へ拡散するか、有機物と反応し有機臭素化合物を生じると想定された。しかし、実際には光照射実験において臭化物イオンの濃度はほとんど減少せず、初期濃度に対し、有意差が認められるものではなかった。本実験条件下において、光照射による臭化物イオンの他化学種への変化や気相への拡散、有機物との反応は確認されなかった。 これまでの研究の結果、大気エアロゾル中の臭化物イオン濃度減少の原因として、液相から気相へ拡散や活性な臭素が溶存有機物と反応したことによるものと想定していたが、本研究で用いたモデル溶液の光化学実験条件下では、減少過程が再現できなかった。よって、単なる臭化物イオンの光化学反応だけでなく、共存化学物質も影響している可能性があることが示唆された。今後、異なる実験条件下で反応機構を探る必要がある。
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